ALL YEAR AROUND FALLING IN LOVE




15.初春





気がつくと、見たことのない天井が目に入った。
次いで泣き出しそうに怒った八戒の顔。
なんか懐かし…おまえ、相変わらず美人だな、と思った瞬間、震えが走った。

寒い。
体の奥からわき上がってくる震えが止まらない。
多分暖かな部屋のベッドの上に寝かされてるんだろうけど、全身が痺れているみたいに皮膚の感覚が鈍くなっている。

「成人男性を運ぶのが大変なことがよくわかりましたよ」
八戒は、ぐいぐいと俺の濡れたシャツを脱がせている。
適当に掴んで羽織ってきたコートは防水じゃなかったようで、シャツやズボンまで湿っていた。
「傘もささないでこんなに凍えて、なにをしていたんですか?」
「なにって、間男。三蔵が留守ってサルに聞いたから」
「 間男って…へんな勘違いしないでください。僕とあの人は何でもありませんからね」

そうなの?そうなんだ。
じわじわと込み上げる喜びに思わず笑うと、ガチガチと歯が鳴った。
「さみぃ…」
「当たり前です。少し頭を冷やしたらいいんですよ」
そう言いながら、八戒は両手を翳して淡い光りを俺に向けた。
傷を治すという不思議な力は、こいつにぴったりだと思う。
前に怪我を治してもらった時は、やわらかな温かさに体が包まれるような感じがしたっけ。
けど俺が冷えすぎているせいなのか、ちっとも熱は感じない。
八戒は焦ったように唇を噛み締めた。
俺のためにそんなに頑張らなくっていいって。そんな泣き出しそうに必死な顔しちゃって。

「ああ、もう!上手く集中できません!」
八戒は 突然立ち上がると服を脱ぎ始めた。
「な、 何してんの?」
「あなたを温めるんですよ。さっき風呂を沸かしたんですけど、生憎ガスの調子が悪くって、時間がかかりそうなんです。この家、安いだけあってあちこちガタがきていて困ってるんですよ」
照れ隠しのように話し続けながら、どんどん服を脱いでいく。
「ちょっと待て!」
人肌で温めてくれようという発想は嬉しいけど、俺の理性が自信ない。
八戒はあっという間に下着一枚になると俺の隣にすべりこんだ。
固まる俺に身を寄せてしがみつく。
その滑らかな感触に、体に熱が回り始めた。

「あったけえ…」
「こんなに冷えて。無茶しすぎです」

しばらく二人で言葉もなくじっとしていた。
触れたところはますます熱くなり、体中に心臓の音がうるさく響く。
もしかしてこれは、八戒の鼓動だろうか。

「お前が好きだ」 「あなたが好きです」

同時に口にして、顔を見合わせた。
八戒は飛び起きると、信じられないといった顔で俺を見下ろした。
「だってあなた、三蔵のこと…」
「は?」
「好きなのかと思っていました」
「そんなこと、あるはずねえだろ」
一体どうしたら、そんなふうに考えつくのかわからねえ。
でもその言葉で、こいつが出ていった理由がわかった気がした。
「なんだ、結局俺ら二人とも、勘違いしてたってわけだ」
「二人とも?」
「お前は三蔵のもんだと思ってた」
「悟浄、僕は…」
俯く八戒を、強く引き寄せ抱きしめた。
途切れた言葉の先に何があるかなんて、関係ねえ。
こいつがどんな過去を背負ってようが、どんな奴と愛し合ってこようが、今、こうして俺のために傍にいてくれる。
赤い髪と瞳に縛られた、しょーもない俺を好きだと言ってくれる。
それだけで十分だ。

「あなたが、好きなんです」
腕の中の八戒は、まっすぐな瞳でもう一度その言葉を俺の胸に刻み込んだ。
血まみれのこいつに出会った雨の夜、俺の世界は変わった。
あの日から、俺の大事なものはただ一つだ。
お前がこんな俺を愛してくれるように、俺もお前が負っている傷ごと、愛したいと思う。

「悟浄」
抱きしめる力を強くすれば、耳元でため息のように名前を呼ばれた。
凍えていた体は嘘のように熱を帯びている。
しっかり反応している自分に気がついて、俺は慌てて身を起こした。
「ち、ちょっと待て!これ以上は…」
八戒から離れようとした俺の髪に、きれいな指が絡みついた。
「僕は構いませんよ」
ゆるく髪を引き寄せながら、八戒は少し首を傾ける。
「僕が欲しくはないんですか?」

そんなの、答えは決まってるだろ。

優しく微笑む碧に導かれるように、俺は甘い唇に触れた。









(2015.3.18)

←back / next→



←novel