アンダンテ




4.




三蔵の依頼を二人で受けることを、八戒は渋々といった体で了承した。
仏像が預けられている寺があるのは、想像以上に小さな街だった。
そこそこ賑やかな通りもあるが、通りを行く者はみな地元者だろう。
昔から人の出入りが少なくて落ち着いている。
その分、こういう場所は偏見が強いものだ。
真面目くさった顔で進む八戒と肩を並べながら、悟浄は調子外れな口笛を吹いた。
いつも温厚な笑顔を浮かべているやつが、どうやら今日は勝手が違うらしい。
それは通りを行き交う者の不審と不安の入り混ざった視線のせいかもしれない。
明らかによそ者を見る目を向けてくる。
「すっげえ田舎だな」
悟浄が聞こえよがしに話しかけると、八戒は軽く睨み付けてきた。
なるべく目立たないように行動したいんだろう。
いきなり手を繋いだら、ビクッと肩を揺らして振り向いた。
「ずいぶん積極的ですね」
「はぐれると困るだろ」
「こんなに目立つ人、そうそう見失うわけないでしょう」
握った手は、素っ気なく逃げていく。

確かに目立つわな。
すれ違う者の視線が自分の頭に向けられるのを意識して、悟浄はわざと髪をかきあげた。
こういう視線には慣れていた。
多分この色の意味まではわかっていないと思うが、これから訪れる寺の奴らはどうだろうか。
学識高い坊主たちなら、知らないはずはないだろう。

「ここですね」
気がつくと大きな寺院の前に立っていた。
八戒は躊躇うように、古めかしい門柱に目をやった。
「どした?入らねえの?」
「何だか気が進みません」
「めずらしい。三蔵サマのためなんだろ?」
「そうですけど…」
悟浄は構わず先に立って門をくぐった。
「悟浄」
八戒が慌ててついてくる。
まるで監視していたように、見るからに頭がかたそうな坊主が数人走ってきて目の前に立ち塞がった。
「止まれ!」
見下した目付きで手にした錫杖を突きつけた。
「ここはお前らが立ち入る場所ではない」

「玄奘三蔵さまに言いつかって参りました。なにか問題でも?」
負けずに慇懃な態度で八戒が応酬する。
僧たちは三蔵の名を聞いて一瞬怯んだが、咥えタバコでふてぶてしく笑う男に目を移すと睨みつけた。
「不浄な者は入れるわけにいかない」
「フジョウ?」
「汚いということだ。禁忌の輩め!」
嘲るように吐き捨て睨みつけると、背を向けて去っていく。
その背中に向かって、悟浄は思いつく限りの罵詈雑言を吐き捨てた。
できるだけ、ガラが悪いことこの上ない者に見えるように。

「僕らには正当な理由があります。構いません、行きましょう」
八戒は先に立って歩き出そうとしたが、悟浄は動かなかった。
怪訝そうに振り向いた八戒に、悟浄は肩をすくめて笑ってみせた。
「俺、帰るわ」
「え?」
「なーんか、馬鹿馬鹿しくなってきた」
「悟浄…」
「お前は行けよ」
背を押すと、八戒は二、三歩進んで戸惑った顔で振り返った。
「じゃあな」
悟浄は踵を返すと、来た道を歩きながらヒラヒラと片手を振って見せた。
八戒は暫く佇んでいたが、やがて諦めたように入って行った。

「ハハ、不浄だとさ」

悟浄は久しぶりに母の言葉を思い出した。
投げつけられた言葉は、昔、嫌というほど聞き慣れたものだったが、久しぶりでちょっとこたえた。
だがそんなことよりも、傷ついたような八戒の表情が気になった。
自分のことだと思っただろうか。
気にすることはないのに。
お前はいつでも、どんなになっても、きれいだからさ。












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