over the rain




7.





家を出て何となく寺に寄ってみると、悟空が浮かない顔でゴロゴロしていた。
不機嫌顔で出ていったままの三蔵を心配していたんだろう。
八戒と一緒にいるから安心しろ、焼肉食いにいくかと誘ったら、二つ返事でついてきた。

「うっめぇ〜!」
サルの満面の笑顔に、全ての悩みがバカらしくなる。
お前はいいよな。
俺は目の前の豪快な食いっぷりを肴にビールを飲んだ。
「悟浄、今日はやけにやさしいな」
「そおか?俺はいつもやさしいぜ。特にきれいなおねえちゃんにはな」
「いつもエロいの間違いだろ」
悟空は俺にドつかれた頭をかばいながら網の上の肉に箸を伸ばし、俺が育てていた肉をかき集めた。
熱さなんかものともせず口に放り込むと、至福を絵にかいたような笑みを浮かべる。
俺はビールを飲み干してお代わりの合図をした。
「三蔵たちも呼ばないのか?」
「あいつらはあいつらで、美味いもん食ってるだろ」
「ふーん、何食ってるんだろう?」
そりゃもちろん、互いをだなーって、ガキにはまだ早いか。
「八戒の手料理だろ」

坊主のくせに悟空なんかに気いつかわせて飼い主失格だが、まあ仕方ねえな。
三蔵サマも、いっぱいいっぱいだったみたいだし。
買い出しの途中で見かけた姿を思い出す。
雨の中、道端で眉間に皺寄せて座禅組んでるって怖いっつうの。
あの、傲岸不遜を絵にかいたような男が、ずぶ濡れで地面に座り込み俺の気配にもピクリともしやがらなかった。
大変だよな、八戒みたいなやつに惚れちまったら。
あいつに惹かれる気持ちも解るけど、俺には手におえねえ。
キスしたり抱き締めたり、何なら抱いたって構わねえけど、それはあいつを傷つけるだけだ。
俺は色恋に関しては、面倒事には近づかないのが主義なんだ。
結局、八戒の心を捉えたのは、三蔵の弱さや脆さなんだろう。
崇高な志でも権威でもなく、傲岸不遜な面の皮の下に隠してきた弱さに、やられちまったんだろう。
八戒を救えるのも、おんなじものを抱えてる三蔵だけなんだろうな。
そして俺は結局、そんなあいつらが好きなんだろうなんて思いながら、煙草に火をつけた。

「人って、寂しいと優しくなるんだって」
ぎょっとして、思わず煙草が口から落ちた。
サルが焼き肉をつまんだ箸を手にしたまま、やたら真面目な顔で俺を見ていた。
「そんなこと、誰が言ってんだ?」
「三蔵が言ってた。八戒が優しいのは、寂しいからだって」
ああ、そういうことか。
「じゃあこれからは、もっと優しくなるかもな。人は幸せだと、優しくなるらしいぜ」
明日には雨上がりの、青空みたいなきれいな笑顔が見られるだろう。
「ふぅん。じゃあ今夜悟浄が優しいのは、どっちの理由なんだ?」
「さあな」
一体どっちだろうな。






end




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