甘雨
3.
「やっぱ俺の言った通りだろ?」
悟浄は執務室の窓をのぞきこみながら呟いた。
雨が降り出したのを口実に傘を持って様子を見にきてみれば、まさに取り込み中な二人に遭遇してこっそり様子をうかがっていたのだ。
それにしても、なんてじれってえ…
悟浄は思わず窓枠を握りしめた。
三蔵が八戒を抱き寄せキスしたところまではよかったが、一向にそこから先に進まない。
抱き合いながら穏やかに話している姿は、うぶなガキか、長年連れ添って枯れた夫婦みたいだ。
そもそもさっきのキスだって、まるで中坊みたいな色気の欠片もない健全なヤツだった。
あの野郎、まさか本当にチェリー?
いやいや、ガキの時分から寺で育っているんだ。
女はダメでも、あっちの知識ぐらいはあるだろ。
相変わらずほのぼのしている二人の様子に、イライラしてくる。
あー、こりゃダメだ。 八戒、お前がヤるしかねえ。猫かぶってねえで、獣になれ!
「なにしてんだ?悟浄?」
「痛ででっ!」
いきなり馬鹿力で髪を引っ張られて、思わず仰け反った。
いつの間にか後ろに立っていた悟空が、大きな目を見開いて悟浄を見上げている。
「なになに?なにしてんの?」
「しっ!黙れサル!」
「うわ、デバガメ?」
いきなり窓が開いて、三蔵と八戒が顔を出した。
「何をしているんです?」
「あ、いや、ちょっと傘を、な」
「ノゾキとはいい度胸だ、エロ河童」
地獄の底からわいてくるような低音に、ほんのり羞恥の響きが混ざっている。
思わず顔がにやけた悟浄に、八戒は首筋を押さえながらにこりと笑った。
「ドアは直りましたか?」
そのキスマーク、やっぱ気付いたか。
やけにきれいな笑顔は、機嫌が悪い証拠だ。
「悟浄が“八戒、ケモノになれ”って言ってた」
悟空がわざとらしい程の無邪気な表情で追い打ちをかける。
不穏な構えをする八戒を見て、悟浄は後ずさった。
「お前!ダチにむかって、日に二回も気功ぶっぱなすか?」
「自業自得ですよ」
掌に淡い光が集まり始める。
「今朝よりずっといい顔してんな!」
脱兎のごとく逃げ出しながら振り向いて叫ぶと、八戒は頬を染めて晴れやかに笑った。
いつの間にか雨は上がり、雲間から日の光が降り注いでいる。
悟浄は水たまりを跳ね上げながら、大きな声で笑った。
end