ラムネ4





5




互いの吐き出したものでぐちゃぐちゃに汚れたまま、僕らは床に転がっていました。
汚れてしまったラグを取り換えなければと考えて
これからもここに居座るつもりの自分に小さな笑いがこみ上げます。
隣では悟浄が規則正しい寝息をたてています。
その顔は安らかで、まるで子供のよう。
少し前まで、僕のせいでひどく色っぽい涙を流していたなんて信じられません。
苦痛と羞恥と快感がない交ぜになったその表情も声も、僕だけのものでした。


愚かな僕は、自分のことしか見えていませんでした。
傍にいながら、この人の孤独と苦しみに気がつかなかったのです。
その冷たい表情も気まぐれな優しさも、思いがけない行為も。
ただ表面に見えるものに振り回されて、危うく大切なものを失うところだったのです。
三蔵の言葉で、僕はやっと気がつきました。
悟浄は誰かに抱きしめられたことがないのかもしれないと。
この長く温かい腕は人を優しく包み込んでばかりで
この人の背を、肩を、この存在を、抱きしめる人がいなかったのではないでしょうか。
あなたの存在はかけがえのないもので、あなたがいるだけで僕は幸せなんだと
伝える人がいなかったのではないかと。


こんな自分が誰かを大切に思ったり、愛しく感じたりしていいはずがない。
僕はずっとそう思っていました。
たとえ好きな人ができたとしても、それを伝えるなんて許されない。
ましてや想いが通じて、結ばれるなんて。
ただ淡々と時を過ごし、そうすべき時がきたら潔く死んでいくことが
僕にできるささやかな罪滅ぼしだと考えていました。

でも、そんなことどうでもいい。
今、こうやってあなたが目の前にいるのに。
こんなにさびしい瞳をしながら、それでも平気な振りで笑っているのに。
どうして抱きしめないでいられるでしょう。
どうして愛さずに―

どんなに非難されようとかまわない。
何万回地獄に落ちてもいい。
僕がこの人を抱きしめよう。
この世であなたを一番、大切に思うと伝えよう。
たとえその想いが僕に向いていなくても、僕が最初に抱き締めたから。
あなたは僕のモノだ。


「これからずっと、僕が食べさせてあげますよ」
僕は床に散らばったラムネを、そっと一つ拾いました。







end



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(2016.1.27)


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