(3Pです。苦手な方は避けて下さい。)



afterward





「三蔵が呼んでたよ。」
部屋に入ってきた悟空が、宿のおかみさんにもらったのだという真っ赤なりんごをかじりながら教えてくれた。
そういえば明日のルートの確認をしていない。
宿の主人によると、これから込み入った山道が続くということだ。
夕飯の時に三蔵が、明日は早く出発するぞと言っていたから、今夜の内に相談しておいた方がいいだろう。
僕は地図を手にすると、隣の部屋に向かった。

軽くノックをしてドアを開ける。
何気なく足を踏み入れて、僕は立ちすくんだ。
二つ並んだベッドの一つに、三蔵と悟浄が座っていた。
二人ともほとんど何も纏っていない姿で身を寄せあい、僕を見上げている。
今まで何をしていたのか、嫌でもわかった。
三蔵の白い肌に残る赤い痕も、悟浄の首筋に残る鮮やかな痕も、見覚えのないものだったから。
「あ…」
鋭い刃物で切り付けられたように、胸が痛んだ。体中で煩い程に鼓動が鳴り響く。
今すぐこの部屋を出なければ。
頭ではわかっているのに、身体が動かない。
僕は惚けたように二人を見つめながら、自分が思い違いをしていたことに気が付いた。
この二人の間に想いはあっても、こんなことをする間柄と思っていなかったのだ。
なんて思いあがっていたんだろう。

三蔵は物憂げに僕を見上げて、目を眇めた。
「八戒」
弾かれるように一歩後ずさった僕に、深い紫が突き刺さる。
「こい」
「え?」
一体何を言っている?
当然、出ていけと言われると思っていたのに…なぜ?
働かない頭で三蔵の言葉の意味を考えようとしていると、音もなく悟浄が近づいて惑う心を見透かしたように僕の肩に手を置いた。
「三蔵サマがお呼びだぜ。」
睦言のように耳元で囁きながら、緩く背を押す。
僕はゆっくりと首を横に振った。
だめだ。
悟浄を振り切って、なんなら殴り倒してでもこの部屋を出なければ、取り返しのつかないことになる。
そうわかっているのに、ベッドの上でしどけなく脚を開き物憂げに僕らを見上げる三蔵から目が離せない。
「こっちへこい、八戒。」
馬鹿みたいに首を横に振り続ける僕に、三蔵は幼い子供に言い聞かせるように口調を和らげた。

“三人でする?”
ただの戯言だと思っていた昨夜の悟浄の言葉を思い出した。
まさか三蔵が、こんなことを許すなんて。
「どうして…」
脱ぎ捨てられた法衣の中に無造作に覗いている銃に目がいった。
この人はどうして僕の存在を許してくれるんだろう。
あの銃で僕を撃ち抜いて、悟浄を手に入れることだってできるのに。
「てめえが一番てめえを責めてるんだろ。それ以上、どうして俺が責める必要がある?」
宥めるように僕の髪を撫でながら、悟浄が左頬に口づけた。
ゆっくり舐めあげられて、僕は自分が涙を流していることに気が付いた。
僕らの様子を見て、三蔵は肩を竦めて苦笑を浮かべた。
「それに今まで知らなかったが…」
まるで愛おしむみたいに目を細め、腕を伸ばす。
「俺はお前ナシじゃ、イケねえらしい。」
まっすぐ伸ばされた指先に、僕は震える掌を差し出した。
逆らえるはずがない。
僕らの中でこの人が一番苦しんでいることを知っている。
その人が求めてくれるのなら―
指先が触れた瞬間、強く掴まれ引き寄せられた。
一気に熱を帯びた身体を抱きしめ口づけられる。
縋るように指を絡ませあった掌の上から、熱く力強い悟浄の掌が重なった。
三人分の重さに軋むベッドの上で二人の熱を体中に感じながら、僕は理性を手放した。




「八戒」

名前を呼ばれて目が覚めた。
大きな瞳をくるくるさせながら、悟空が僕を覗き込んでいる。
「寝てたのか?」
ひどい夢をみていた。口にだせないような淫らな夢。
喉が痛むほどに乾いていて、鈍く頭が痛んだ。
ゆっくり身を起こしながら、夢であったことに心から安堵した。
あんなこと…許されることじゃない。
「大丈夫です。ちょっと変な夢を…」
心配そうに見つめる悟空の手の中のものを目にして、僕は言葉を失った。
「よかった。あ、これ、さっき宿のおばさんにもらったんだ。」
言葉もなく見上げる僕の目の前で、悟空は真っ赤なりんごに噛り付いた。
込み上げる悪寒に震えが走る。
続く言葉を、僕は知っている。


「そういえば、三蔵が呼んでたよ。」


震える手で地図を取ると、僕は隣の部屋に向かった。






end

(2014.2.14)

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