虜
鍵は、最後の砦だったのよ。少なくともオレにとっては。
別に場所が重要ってわけじゃなくて。
帰りたいのは“家”じゃねえし。
だからこれだけは失くすわけにはいかなかったし。ま、ちっと照れ隠しっつーか。
いや、そうじゃねえか… 多分、オマエがどう出るのか見たかったのかも。
そういやぁ猿のヤツ、前にオマエと一緒に住みたいとかぬかしてやがったな。油断ならねえヤツ。
あの時三蔵さまには睨まれたっけ。
で、オマエは思ったとおりこんな有り様。
馬鹿だよな、ホント。
オレの気配にも気付けないほど思い詰めちゃって。
鍵を握りしめた手が震えてるのも、自分じゃわかんねえだろ。
その赤いりんごがオマエの手を離れる前に抱きしめてもいいんだけどさ。
オレは知りたいんだよ。
そんなことぐらいで、オマエはオレを諦めちまうの?
オレは魔法をかけられたまんまなのに?
あの泥まみれの死体もどきだったオマエは、見上げた緑の目でオレを取り込んだだろ?
そうだな、魔法じゃなくて呪いかな。
まぁどっちでもいいんだけど。
そういや、この湖っていつ来たんだっけ。すげぇ暑い日でさ、みんなで飛び込んだよな。
なんかオマエの目の色みてえと思ったからよく覚えてる。
だからさ、そのりんご落としたって変わらねえよ。
ますますオマエに吸い込まれるだけ。
これ以上オレを虜にしてどうする気なんだよ、この美人さんは。
あ〜あ、落としちまったよ。
もう二度と解けない呪文だな。
両手を上げて、大人しくオマエに捕まるから。
貢ぎ物は鍵でいいだろ?
end