missing you
4.悟空
「あれ、どうしたの?それ」
悟空は三蔵の執務室を覗いて、八戒の姿を見つけた。
八戒は一抱えのパンフレットを胸にしっかり抱きしめて、微笑みを返す。
「悟浄が今度、温泉に行こうって言うんです。こんなにたくさんパンフレットをもらってきちゃって」
嬉しそうな八戒の微笑みにつられて、悟空も金の瞳を細めた。
数日前温泉の招待券を手にしてこの部屋にやってきた時とは、比べ物にならないくらい幸せそうな顔をしている。
少し強引な手だったけど、どうやら上手くいったみたいだ。
これで悟浄も少しは懲りただろうか。寂しそうな微笑もきれいだから悪くないけど、八戒にあんな顔をさせるなんて許しておけない。
「懐石料理?」
「冬の海にカニを食べに連れて行ってくれるそうですよ」
そのために悟浄は、最近せっせと日雇いの工事現場のバイトにいっているとか。肉体労働はお手の物だろう。
嬉しそうに微笑む八戒の後ろに見える執務机で、三蔵が不機嫌そうに湯のみを手にしている。
「今日は美味しいお茶が手に入ったんで、三蔵に飲んでいただこうと思って」
悟空の視線の先に気づいた八戒が、肩越しに三蔵を見遣って説明した。
なぜか三蔵は先日の温泉旅行以来、落ち込でいるようだった。八戒と何かあったのだろうかと思いながら眺めていたら、一口茶を飲むと、思い切り渋い顔をして吹いている。
珍しい健康茶でも飲まされたのだろうが、やはり何かあったに違いないと確信した。
ゴホゴホと咽ている三蔵のことはお構いなしに、八戒は悟空の顔を覗き込んだ。
「悟空も一緒にカニを食べに行きませんか?この間は留守番してもらっちゃったし」
「オレはいいよ。八戒の美味いカレーが食えたし」
二人の邪魔したら、ソレこそ野暮だし。
それに八戒のこの笑顔が見られただけで、充分幸せだから。
でも――。
「ねぇ、八戒」
「はい?」
「春になったら、一緒に温泉に行ってくれる?この間テレビで桜がきれいな宿特集やっててさ。メシもすっげー美味そうだった!」
「いいですねぇ」
八戒が少し早い春の花のように微笑んだ。
もう少し大人になったら、オレも仲間に入れてね。
end
(2010.1.24)
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