ラムネ2
1
とてもきれいな白だったのです。
ウインドの中のそれはひっそりとそこにありました。
上品な輝きをみせる、陶器でできた蓋つきの壺で。
きっと触ったら滑らかでひんやりしていて、指先を滑る感触は繊細で。
僕は想像しただけでうっとりしました。
下品で悪趣味ともいえる輝きを見せるあの色とりどりの小さな包みをその中に入れたら、
とても似合うだろうと思いました。
目の前に翳すと世界をドギツイ色に染めるセロファンの中に、ひっそりと収まっている白い塊。
悟浄が僕にくれる様々なものの中でも一等甘くて苦いあの菓子によく似たきれいな白。
僕の目はその壺に釘付けられて、冷たい風が吹き抜ける街外れの骨董店の前から動けなくなりました。
「なにしてんだ?」
振り返ると不機嫌顔の僧侶が立っています。
「三蔵…」
挨拶もそこそこに魅入られたように視線を戻した僕に並んで、三蔵はウインドの中を覗き込みました。
僕の見つめているものを捉えると、三蔵は拍子抜けしたような声をだしました。
「何だ、壺か」
「きれいでしょう」
「買わないのか?」
「一桁違いますよ。きっと古いものなんですね」
小さな紙に記された金額は、僕の生活レベルにはそぐわない金額でした。
諦めるより他はありません。
僕の言葉に胡乱気に目を細めると、
三蔵は重い扉を開けてすたすたと店の中に入って行ってしまいました。
年老いた店主に向かって、ウインドに並んだ壺を包むように話をしています。
慌てて中に入り呼びかける僕に、三蔵は小さく口元を引き上げました。
「欲しいんだろう。遠慮するな」
「そんな高価なもの、頂けません」
「この間の仕事の報酬だ」
調査、研究という名目の三蔵からの依頼を引受けて遠くの村の妖怪の様子を調べに出かけたのは、
一週間程前でした。
もちろん調査だけですむはずがなく、不本意ながら力技をつかうことになったのですが。
そういえば、まだ何も報酬を受け取っていませんでした。
「でも…」
気の短い三蔵は躊躇う僕に取り合うことなく、僕たちの一ヶ月の生活費と同じ額の代金を払うと、
さっさと店から出てしまいました。
慌てて追いかけた僕を振り返ると、少し照れたように視線をそらせたまま僕の胸に包みを押し付けました。
「ありがとうございます」
申し訳ない思いと思いがけず手にできた喜びで、
僕は浮き立つような気持ちで手の中の包みをそっと抱えなおしました。
「そいつに何を入れるんだ?」
「ラムネです」
「ラムネ?…ラムネって、あの子供の菓子のことか?」
怪訝そうな表情の三蔵に、僕は微笑みかけました。
「あの人がくれるんです」
きれいな指で包みを剥いで、食べさせてくれるんです。
いつの間にか二人の間で習慣になっている、儀式のような時間。
唯一あの人が優しい瞳を見せてくれる、得がたい一時。
三蔵は眉をくもらせながら僕の顔をじっと見つめて、小さく舌打ちしました。
でもそんなこと、僕には気になりません。
一刻も早く家に帰って、この中にラムネを入れるのです。
歌うように “さようなら”を告げると、僕は歩き出しました。
「何考えてやがる」
背中で三蔵の吐き棄てるような声と、深いため息が聞こえました。
今度三蔵が家に寄ったら、一つぐらいならあのラムネをあげてもいいな。
腕の中の包みを抱きしめながら、僕はうっとり微笑みました。
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(2009.12.06)