情けの矛先
『あれだぜ。アイツはお前のことなんて、ちっとも思っちゃいないぜ。』
『わかってますよ、そのくらい…』
だから、わかってるから悟浄…そんな目で見ないでください。
◇◇◇
『俺にしとけば?』
という甘い言葉は繰り返し僕の耳に落とされた。
これは何なのだろう……
懐の深すぎる彼は、好きな人に相手にされない可哀想な同居人に、同情しているのだろうか。
ホイホイと、元同居人の人質になるような人だ。
有り得て怖い。
せっせと慶雲院に通う僕を、『いってらっしゃい』と手を振って送り出す彼の気持ちがわからない。
もし、本当に僕が好きならば、やめろと言って止(と)めればいいのに。
『また、行くの?』
『ええ、また、行くんです。』
ほとんど悟空の胃袋に入るお弁当の一角は、あの人の好きなものばかりを詰めた。
これを摘まむ時のあの人の、一瞬緩む顔が好きだ。
ひょいと手が伸びて、隅に詰めた渾身の卵焼きをつまみ食いされた。
『甘え〜』
『ええ、ラブラブですからね。』
些か虚勢を張って、
もう一度伸びてきた手を叩いて蓋を閉めた。
きっちり詰めたのに…まぁ、持って行くまでに揺れてどうにかなるだろう。
『アイツさ。』
『えっ?』
つまんだ指を舐めながら悟浄が言った。
『好きな奴、いるぜ。』
『えっと、』
力が抜けて、弁当をテーブルに置いてすとんと椅子に座った。
『……誰が…?』
『三蔵さまが…』
『……誰を?』
『言えない。』
僕ということはあり得ない。何度となく告げては無視された。
『もしかして……貴方?』
悟浄が、ニッと笑った。
そっ、か…。そういう…ことか。
『……二人して、馬鹿にしてました?笑ってたんですか?』
ダメだ。目の前が暗い。
『そう言うと思った。』
手が伸びて、僕の髪をワシャっと掴んだ。
『顔、上げて。俺の顔、見て。』
無理矢理上げさせられた視界の先には、驚くほど真剣な顔があった。
『茶番ですね。』
『そうかもな。』
みんなして、一方通行のぐるぐるだ。
『俺にしとけよ。』
『ダメなんです。』
『だろうな。』
あの人と悟浄も、こんな会話を繰り返していたのかと思うと笑えた。
可笑しくて堪らない。
『もう、こうなったら、あっちに行けばいいじゃないですか。こんなのほっといて…』
『そりゃ、無理だわ。』
でしょうね。気持ちは急には変えられない。あの人も僕も悟浄も。
『ああ、もう。お弁当持って行く気無くなっちゃったじゃないですか…』
『喰っちまおうぜ。』
蓋を開け、唐揚げを頬張った。
美味い。泣けるほど美味い。
結局、押し掛けてくる僕を拒否しなかった三蔵も、
すべてを知っていて、僕の気持ちを優先していた悟浄も、
ぬるくて気持ち悪いほど、僕に甘い。
『たちが悪いんだから……』
『それはそれは…』
申し訳ないなぁ。と言いながら、悟浄はまたあの人の為に作った卵焼きを頬張った。
完.
三蔵→悟浄→八戒→三蔵
果てなく求め続ける一方通行な三角関係は、甘くて苦くて切ない。
夜来様の素敵なぐるぐるを堪能できて、幸せです。
ありがとうございます。
(2012.11.16)