幸福の王子







『なぁ、アイツ大人になったよなぁ…』

悟浄が僕の隣りを歩きながら、前を歩く三蔵の隣りの悟空を指してこう言った。

それはそうだろう。
こんな大人3人の曖昧な関係を追求する事もせず、黙って見守っているのだから…

その澄んだ金色の瞳には、全てが写し出しされているだろうに。それでも彼は何も言わない。

『僕らより、ずっと大人ですよ、悟空は…』

そう言った僕の顔を、悟浄は何とも言えない顔で見詰めた。

『何です?どうかしましたか?』

『いやね。お猿ちゃんに取られちまうかなあ〜って、な。』

可笑しかった。急に吹き出した僕に、悟浄が慌てて言葉を足した。

『何だよ、いいだろうが。それでなくても邪魔者がいんだから。』

『そうでしたね。僕がいけないっていうのも、分かってますよ。』

悟浄が一旦石ころだらけの道を見つめ、僕の肩を抱き寄せると囁いた。

『なぁ…次の宿のお相手、もう決めてるの?』

その時、三蔵がこちらを振り向いた。一瞬だったが射抜くような紫暗の瞳と視線が合ってしまった。

何も言わず、すぐ前を向き歩き出した三蔵の隣りには、それを知っていて何事も無かったように歩く悟空がいる。

『ハッ、地獄耳だこと。』

もう聞こえても構わないとばかりに、悟浄があからさまに呟いた。

僕を好きだと言った悟浄。黙ってしまった僕に、躰だけでもいいから頂戴…と言った。

だから、僕は与えた。こんな躰なぞなんの価値も無い。雨の中、くたばりぞこないの僕を拾い、あの森の家で穏やかな日々をくれたこの人に、何も返すものが無いから。

三蔵が俺のものになれと言ってきた。僕に新しい命を与え、何くれとなく見守ってくれたあの人に、何も返すものが無かったから、別に良かったのだけれど…

もう僕は悟浄に躰を与えてしまいました。どうしましょうか?

と尋ねれば、三蔵は憤怒の表情から痛ましいものをみるようにして、僕を抱いた。

それから、ズルズルとこの関係が続いている。

2人共にそれ以上は何も求めて来ない。いや、もう求められても差し出すものはこの命しかないけど。

時々、僕を抱く悟浄の瞳が切なげに細められても、僕を抱く三蔵の瞳に苛立ちが見えても、僕は何も出来ない。

その日の宿は生憎満室に近く、4人部屋となった。

買い出しの手伝いを買って出た悟浄に、三蔵が鋭い視線を送っていたが、悟浄は何処吹く風と僕の肩を抱いて宿を後にした。

案の定、買い物の途中で連れ込み宿に引っ張られた。

『なあ…お前のここって、どこにあるの?』

悟浄が荒い息を吐きながら、愛撫の手を休めて僕の胸を指した。僕は腰を振り、快感を追いながら考えたが分からなかった。

『もう…無い…かも…しれません…ね。』

彼女にあげちゃったから。もう、貴方達にあげるのはこの躰と命だけ…

だけど僕は幸せなんです。貴方達に少しでも返せるものがあって。

こんな僕のこんな躰で良かったら、血でも肉でも分けましょう。

空っぽの僕を愛してくれた、お返しに……。






完.





空っぽの八戒の痛みとそんな彼に惹かれる悟浄と三蔵の確執。
胸が痛くなるような三角関係ですが、悟浄も三蔵も、自分は空虚だと思い込んでいる 八戒を自らの手で満たしてやりたいだけなのだと思います。
そして、そんな彼らをあるがままに受け入れて見守る悟空が、とても大人で素敵。
夜来さまの王道385に痺れます。
どうもありがとうございます、夜来さま。葉村は幸せ者です。




(2010.10.6)




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