最愛の人






“貴方、本当に馬鹿ですねぇ・・”

なあんで、今、思い出したんだろうなあ。
鍋との脈絡ってやつがさっぱりわかんねえ。
だいたい、もう、ここしかねえだろ、という考えに考えたタイミングで、大胆不敵に告白ったっちゅーのに
ものすごく呆れた顔で返った第一声がこれだよ!
ガックリきて泣きそうになったけど、オレは見逃さなかったんだよ。
オマエがほんの一瞬、泣き出しそうな顔したの。
そりゃまぁずっと、ずっと、見て来たし?
大丈夫じゃない大丈夫も、笑ってない笑顔も、怒ってない仏頂面も
ポーカーフェイスの照れ隠しも、能面みてえな我慢の顔も。
ちゃんと区別はついてるし。


“これ以上僕を背負ってどうするんです”

続けて出て来たセリフはこれだ。
冷静そのものって感じの口調だったけどよ
握りしめた手が微かに震えたのだって、オレは見逃さなかったんだよ。
別に最初っからオマエの返事なんかどうでもよかったから
もう有無を言わさず抱きしめたんだよな。
んで、ついでに唇もふさいでおいたっけ。
それまでのフザケたホッペやオデコや鼻の頭や目蓋にチュッ
てーのとは段違いの、オマエの腰が砕ける本気のヤツ。


“僕に執着されるのが怖くはないんですか?”

苦笑まじりにオマエはそう言ったけど
相手に何か返してもらえるなんて、考えたこともなかったしな。
どっちかってーと嬉しくてたまんないんだけど、オレは。
だから逆にもっと、って思っちまう。
情けねえけど、もっと、もっと、もっとってキリがねえ。
ガキじゃあるまいし、自分でもどうかと思うけど止められねえ。
執着してるってんなら、たぶんオレのほうなんじゃねえの?
諦めてばっかで、求めることなんか忘れてたオレを
すっかり変えちまったの、オマエは。


「今夜はさすがに疲れてるんですけど?」
うん、そりゃまあわかってんだけどよ。出張お疲れさん。だから、1回だけ。
「だいたい貴方、昨夜は外泊したでしょ?どちらのお姉さんです?」
だってオマエのいない家に一人でいるのはイヤだし。
「1回だけって言って、それで済んだのは今までに6回だけです。」
数えんなよ!そんなこと。今夜はホント。7回目の正直。
「貴方の約束ほど当てにならないものはありません。
待ち合わせには必ず遅れるし、お姉さん方との遊びはやめないし、
賭け事だってもうしねえって言いながら、今でも時々ー」
うわ、ヤベぇ。とりあえず実力行使。

ってことで、お得意の腰が砕けるキスを繰り返したら、ようやく抵抗を止めて
あの綺麗な翠の目が潤んでオレを見つめかえした。
ニセモノの右目ですら、同じように欲に染まって見えんのが不思議。
出会った時、たぶん一目惚れしたあの両目は、もう二度と戻んねえし
この右目も三蔵があつらえたってとこは悔しいけどな。
三蔵が猿の望みを叶えてやりたかったのか、ヤツ自身の好意だったのか
イマイチよくわかんねえけど、まあ感謝はしてる。
あの食えねえ坊主や可愛い小猿ちゃんとの付き合いを
オマエがどんだけ大事にしてるかわかってるし
オレだってこういうバランスは悪くねえなって思ってるよ。
でもたまにな、オマエのその残った本物の目が
何でかニセモノと同じ色に見えちまうことがあってさ。
オレの知らないオマエがいるみてえで、なんか胸が痛くなんだよ。
だからオレは必死になって、あれやこれや手のかかる男をよそおって
オマエを振り向かせるんだ。

“仕方のない人ですねえ”

そのセリフを聞けるなら、ワガママな振りでも鈍感な振りでも、なんだってする。
愛しくて堪らない、って、そういう顔してんだよ
オマエがそのセリフを吐くときは、いつも。
それでもオレの側に居ることは、ずーっと昔から決まってるんだって感じでさ。
だから、これから先も、ずーっと一緒にいるためには
オレは“仕方のない男”で居続けなくちゃいけないわけよ。
ということは、だ。
今夜もやっぱり1回でオシマイには出来ねえよな。
この前つけた印は消えちまったかな。
今夜は、どこに紅い花を咲かせてやろうか・・


不埒なオレの思いを知ってか知らずか
腕の中の大事な宝物が
幸せそうに“仕方のない人ですねえ”と呟いたのを
やっぱりオレは聞き逃さなかった。






 end




WIRED様が“八戒に首ったけな悟浄”を書いてくださいました♪
これは非常にレアな一品です。なんという幸せ。
“仕方のない人”で居続ける悟浄がかわいくてたまりませぬ。
WIRED様、ありがとうございます。

(2010.3.1)


←treasure