sweet






「これは何だ?」
机の上の箱を見て、三蔵が少し眉を寄せた。
「チョコレートです。今日はバレンタインですから」
「バレンタイン?」
「あ、ほら、いつもお世話になっていますし。ささやかな感謝の気持ちです」
「そうか」
「べ、別に深い意味はありませんよ。義理チョコ、というか義務チョコというか友チョコ? 製菓会社の企てに乗せられるわけじゃないですけど、年に一度感謝の気持ちを形にして人間関係を円滑にできるいい機会ですから。もちろん、悟空にも悟浄にも用意しましたよ。あ、でも苦手なら無理しないでくださ…」
「美味いな」
くどくどと言い訳がましい僕の言葉を聞きながら箱を開けると、三蔵は無造作に一つ口に入れた。

普段不機嫌そうに見えるこの人が、好みのものを食べたときに見せるやわらかい表情が好きだ。
別に本当にいつも不機嫌なわけではなく、おそらくは少し視力が弱いために寄ってしまうのだろうその眉間の皺までも愛らしいと思っている。

市販のものよりだいぶ甘さを控えたのがよかったのか、三蔵は気に入ったくれたようで二つ目に手を伸ばした。
きれいな並びの前歯で齧ると、中身を確かめるようにじっと見ている。
「中にオレンジピールを入れたんですよ」
この一か月試作に試作を重ねた甲斐があった。
チョコレートとの配分になかなか苦労したけれど、この人が食べる姿を想像したら苦でも何でもなかった。
ほぼ毎日試食してくれた悟浄は体重が3キロ増えたと言っていたけれど。
毎朝毎晩のチョコレートに相当辟易していたようで、ここ数日は家に帰ってきていない。

「お好みですか」
「ああ、美味い」
「よかったです」

本命チョコですから。
もちろんこんなこと、言えるはずはないけれど。
ああ、チョコレートがうらやましい。
この人の口に含まれて鋭い歯で噛み砕かれ舌の上で溶けるってどんな感じなんだろう。
触れたことがないからわからないけれど、きっとこの人の体温はあまり高くないんじゃないかと思う。
でも口内はきっととても温かくて、ゆっくり僕(チョコ)を溶かしてくれるだろう。
この思いごと飲み込まれて、この人と一体になれたらどんなに幸せだろう。

“そんな執着がぎっしりつまったチョコ喰ったら、三蔵が腹下すぞ”
なんて悟浄の声が聞こえそうだ。
大丈夫ですよ。
この思いを伝える気はありませんから。


「そんなに見られると、食いにくい」
「え?」
知らないうちに、じっと見つめていたらしい。
チョコを指に摘まんだまま、三蔵が僕を見ていた。
「す、すみませんっ!今、お茶を入れますから!」
慌てて立ち上がったら腕を捕まれた。
「お前もつきあえ」
強い力で引き寄せられて、三蔵の上に倒れこんだ。
きれいな指でチョコを差し出されて、思わず口を開けてしまう。
口の中に広がる、チョコの甘さとオレンジの苦みとさわやかな香り。
などを感じる間もなく、追うように三蔵の舌が入ってきた。

はじめて知った強烈な熱に、チョコも僕もあっけなく溶けた。






end





(2015.2.13〜2015.8.13 拍手ss)






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