千年先も
「気持ちいいですか?」
目を瞑って寝転ぶ頭の上から、柔らかい声が降ってくる。
「オネガイ…もう少し、こうしてて」
小さな笑い声と一緒に、やさしい指が髪に触れる。
「もう少しって…いつまでですか?」
髪の毛を梳きながら、少しだけ咎めるような響きをのせた声が含み笑う。
「こういうのって、なんか懐かしいカンジ」
少しだけ八戒の膝が硬くなった。
「何ですか?以前お付きあいしていた彼女にも、よくしてもらったとか?」
「いや、もっと前に、誰かにこんなふうにしてもらってたような…」
髪に触れた手がピタッと止まった。
ヤバイ、怒らせたか?
頭の上から降ってくる小言を覚悟しながら目を開けると、意外にも八戒はぼんやりと空をみていた。
「そういえば、僕も膝枕をしてもらった記憶があるんです。でも誰にしてもらったのか、どうしても思い出せないんですよね」
「ねえちゃんだろ?」
「いえ、もっとずっと昔のことです。僕は本を読んでいて、飽きるとその人を見上げては笑って、それから…」
八戒は何かを探すようにさまよわせていた瞳を俺に戻した。
きれいな碧の中に、いたずらを思いついたような笑いが浮かんでいる。
「たしか、こんな風に…」
といいながら身を屈めて、俺の唇に小さく口づける。
「ふーん」
「妬きました?」
「べつに」
俺の目をのぞきこんで笑いながら、八戒はまた俺の髪を梳く。
なあ、自分がどんな顔してるか分ってんの?
そんな好きでたまりませんみたいな目をして見られたら――
「どんな人なんでしょうね、あなたに…っん!」
いきなり頭を抱えるように引き寄せて、口づけた。
八戒が驚いたのは一瞬で、すぐに深い口づけで応えてくれる。
低い位置から受けるそれは、まるで食われるみたいで妙に興奮した。
指先がシャツのボタンを外して胸元を滑る感触に笑いながら、負けじと八戒の襟元を乱すべく身を起こす。
直に互いの熱を感じると、わき上がる安堵感にちょっと泣きたくなった。
抱き合う度に感じる、この懐かしさに似た切ない感じは何だろう。
さらに深い繋がりを求めて抱き締めると、八戒はきれいに微笑んで囁いた。
「きっと夢ですよ」
ああ、そうだな。
膝枕でやさしい指に髪を預けた時間。こんな風に求めあった記憶。
あれが夢なら、いつかこの時も夢になるのかもしれない。
百年先も千年先も、一緒にこんな夢をみよう。
end
(2015.5.8〜2015.813 拍手ss)