キウィ
夕闇にネオンが灯り始めた街角で、見慣れた後ろ姿を見つけた。
紅い髪の男は煙草屋の店先に佇み、ぼんやりと道行く人を眺めている。
時折機械的に指先を口元に運んではいるが、心ここにあらずという様子だ。
行き交う人の中から、タイプのおねえさんでも探しているのか。それとも誰かと待ち合わせだろうか。
ふと、悟浄が僅かに顔を上げた。
その視線は、賑わいの中、ゆっくりと歩いていく一組の親子の姿に向けられている。
ちらりと見えた若い母親は、なかなか美しい顔立ちをしていた。
なるほど、気を引かれるのもわかると思いながら悟浄の顔をみて、思わず目をみはる。
悟浄の見つめる先は、連れている子供だった。
いや正確には、子供と母親の間で繋がれた手を見ているようだ。
人の多い通りで、はぐれないようにしっかりと手を繋ぎあう親子。
必死にしがみつく子の手を見つめるその横顔は、懐かしそうな哀しそうな、複雑な表情を浮かべている。
“悟浄”
“お、帰ったか”
僕の呼びかけに応えた悟浄は、いつもの顔をしていた。
“また何かせしめたな?”
僕の抱えた紙袋をのぞきこんでて笑う。
袋の中には溢れんばかりのキウイが入っていた。
“人聞きが悪いです。近所の檀家の方から大量にいただいたそうですよ”
食いきれねえから持っていけという、三蔵の不機嫌顔のくせにやさしい言葉を思い出して、思わず笑ってしまった。
“どちらへお出かけですか?”
“いや、もう帰るわ”
今夜は家で過ごすようだ。
僕らは家へ向かう道に沿って街を抜け、林へ入った。
“そんなにたくさん、どうすんの?”
“ジャムを煮てもいいですし、一緒に漬ければ安い肉も柔らかくなるんですよ”
“さすが節約主夫。じゃあ今夜のデザートはこいつだな”
“残念ながら、まだ熟していないんです。追熟するまで、もう少し待ってくださいね”
“へいへい”
何気ない風に、僕は悟浄の左手に自分の右手を絡ませた。
悟浄は驚いた素振りも見せず、少し笑って握り返す。
しばらく言葉もなく、林の中を歩いた。
僕がこの人に拾われた場所も、何食わぬ顔で通りすぎる。
幼い頃この人には、その小さな手を握ってくれる人がいたんだろうか。
それとも寂しい目をして、手を繋いだ親子を見つめていたんだろうか。
共に暮らして、時にはじゃれあったり戯れにキスをすることもあるけれど。
心の奥底に抱えたままの痛みには、互いに触れることはできない。
それでもこうやって繋いだ手が僕を幸せにするように、この温もりが少しでもこの人を癒すことを願っている。
手の中の果実は、甘い芳香を放ちながら熟れていく。
僕らもゆっくり熟れていこう。
end
(2016.5.7〜2016.9.1 拍手ss)