西瓜







夏と言えばスイカだ。
あっつい中、よく冷えたスイカは殊更美味い。
水分だけじゃなくリコピン、カロテン、カリウムを豊富に含み、夏バテ、熱中症予防にも効果的。
それはわかる、わかるのだが。


“八百屋のおじさんから、サービスでたくさん頂いちゃって”
両手に二つずつ、背中のリュックにも二つ、おまけに頭の上に一つのせて(一体どうやってるのか教えてほしい)、八戒が嬉しそうに帰ってきたのは三日前のことだ。
商店街のアイドルだもんな、お前。
八百屋のおばちゃんも肉屋の親父も煙草屋のばあちゃんも、みんなこいつのさわやかな笑顔に騙されて、なんだかんだとよくしてくれる。顔を見れば、なぜか小言をくらう俺とは大違いだ。

以来毎食後のデザートがスイカなのはもちろんのこと、漬物に炒め物、スープと連日食卓に並んでいた。
さすがにこう毎日食い続けると飽きる。そして今日現在、まだ三個程が台所に転がっていた。

さっきから八戒は、包丁を片手にじっとスイカを見つめたまま動かない。
今にも刃を入れようという姿勢で、考え込むように緑と黒の縞模様の球体を凝視している。
なんか、嫌な予感が…。
“悟浄、スイカ割りをしたことがありますか?”
“ねぇけど”
そんな健康的な夏のレジャーとは無縁だったし。って、スイカをかち割るのが、健康的なのかどうかわかんねえけど。
“悟空たちを呼んで、やりましょうか”
“なんであいつらと?”
“じゃあ二人でやります?”
八戒はにっこりと笑いながら、鋭い刃をザクリとスイカに突き立てた。
濃い緑の中から、いきなり赤い果肉が現れる。
俺は昔から、スイカの切り口を見る度にドキッとする。
別にもう、あの色に何の思いもないんだけど。
ただ、みずみずしい果肉の色があんまり鮮やかだから、今でもつい目を奪われちまう。
こんなこと、誰にも言ったことねえけどな。
もちろん、こいつにも。

“なんでスイカ割り前提なの?”
“二人じゃ食べきれませんし、いつも三蔵たちにはお世話になっていますからね”
きっと悟空が喜びますよと八戒が嬉しそうに笑うから、スイカなんて寺には山ほど供えられてんじゃねえのという言葉は飲み込んでおいた。

翌日の夕方、不機嫌顔な坊主が笑顔いっぱいの小猿を連れてやってきた。
いつの間にか俺のガラクタの中から見つけ出したらしいバットを片手に出迎えた八戒に、三蔵がぎょっとした顔で俺を見た。
多分、そのバットは一体どれくらいの血を吸ったんだなんて思ってるんだろう。

庭に敷いたマットの上にはスイカが並べられて準備万端だ。
いつ買ったのか、アウトドア用のコンロやパラソル、テーブルや椅子もセットしてある。
俺は朝からバーベキューの具材とビールの買い出しのために叩き起こされた。
悟空は庭の有り様を見ておおはしゃぎだ。
“暗くなったら花火をしましょうね”という八戒の言葉に、さらに興奮して舞い上がった。

悟空はタオルで目隠しをしてバットを手にすると、その場でくるくると10回程回った。
よろけることなく真っ直ぐにスイカに向かっていきピタリと止まると、迷いなくバットを降り下ろす。
スイカは気持ちいいくらい、きれいに割れた。

“すごいですねえ、悟空”
“獣は鼻が利くからな”
“そこは空振りするのがお約束だろ”
好き勝手言う俺たちに、悟空は得意気にVサインして笑った。

“次は三蔵ですよ”
八戒のご指名に、三蔵は嫌そうな顔のわりにすんなりとバットを受け取った。
目隠しをした坊主がバットを手によろよろと歩く様はなかなか見物だった。
期待通りに空振りした三蔵に、爺むせえという呟きを拾われて律儀に拳銃を向けられた以外は、概ね平和な夏の宵だった。

俺はビールを飲みながら、奇妙な巡り合わせで知り合うことになったやつらの笑顔を眺めていた。
赤く染まった空には赤トンボが舞っている。

なんだこれ。
恥ずかしいくらい、優しくて穏やかな、この時間。
苦手だったスイカの鮮やかささえも、すげえきれいに見える。

それもこれも、こいつがいるから――

“はい、悟浄”
八戒がいつもより少し幼い顔で笑いながら、豪快に割られたスイカを差し出した。
“サンキュ”
一口かじると、それは今年一番甘かった。








end



(2015.8.13〜2016.5.7 拍手ss)




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