バナナ







“じゃーん!”
悟空が背負ってきた巨大な風呂敷を得意満面な顔で広げると、中から黄色い山が現れた。
“わあ、ありがとうございます。こんなにたくさん、重かったでしょう?”
“全然!三蔵が、寺じゃ食いきれねえから、持っていけって。すげえ美味いんだぜ”
悟空は両手に持ったバナナの房を、嬉しそうに八戒に手渡した。
“いつも助かります。とても美味しそうですね”
サルがバナナ背負ってやってくるって、何かの冗談かよ。
三蔵が寄越す高級果物が大のお気に入りの八戒は上機嫌だ。
何かにつけてクソ坊主は、その地位を見せつけるように八戒が喜びそうなモノを寄越しやがる。
“ありがたく食えよな、悟浄”
悟空は俺の脇腹を肘でど突いてにやりと笑うと、バタバタと帰っていった。

“なんかムカつくー”
“何言ってるんですか。貰えるものはありがたく頂きますよ。あそこには、なかなか口にできない高級品が集まってくるんですよ”
“お前なあ、タダ程怖いものはねえっつうぞ”
“何かあるっていうんですか? ”
“現にあいつの代わりに、あちこち行かされてこきつかわれているだろ。仏像取ってこいだの、盗賊捕まえろだの”
“あれはきちんと謝礼をいただいていますよ”
“じゃあ、いつか、今までの高級果物の礼に、その体を差し出せとか言うんだぜ、あのクソ坊主”
“はあ?何言ってるんですか?そんな貧相な発想しかできないんですか?”
八戒は怖い顔でにらんでくる。
怒った顔もきれいなんだよな、こいつ。ついつい怒らせたくなっちまう。
“それに頂くだけじゃなくて、ちゃんとお返しをしていますよ”
“お返しって何をだよ?”
“お菓子ですよ。頂いた果物で、あの人のリクエストに応えてお菓子を作って届けているんです。今回だって、ほら!”
八戒は憤慨しながら、半紙に墨で黒々と書かれた達筆を俺の目の前に突きつけた。
『クッキー、マフィン、スコーン、パウンドケーキ、クレープ、タルトバナーヌココ、ギモーヴバナーヌ…』
って、女子か!
これ、全部作れんの?最後の呪文みたいなやつなんか、全く想像できねえんだけど。

八戒は“ほらね!”と言いながら得意気に笑った。
だがお前はわかってねえ。
それはお前を呼び出すための口実だろうが。しかも手作りの菓子付きで。
って、俺なんか、毎日こいつの手料理食ってるけどなー。
ざまぁみろ、クソ坊主!

八戒はバナナを一本ずつ丁寧にビニール袋に入れ始めた。
“こんなにたくさんもらったって、すぐ腐っちまうだろ?”
“こうやって包んで冷蔵庫で保存すれば、長い間もつんですよ。
“入りきるのか?”
“こうすれば、大丈夫です”
にっこり笑うと、俺のビールを次々に冷蔵庫から取り出していく。バナナ優先かよ!

“それにしても立派なバナナですね。一本いただきましょう”
八戒は左の掌にバナナを載せると、右手でそっとバナナに触れた。
“ほら、こんなに立派なんですよ”
ちょっと待て。
何でバナナなんかをそんな愛しそうに撫でる?
きれいな指で皮をむき、なだらかな曲線を描く果肉をうっとりと見つめている。
それから、おもむろに口に近づけてそっとくわえた。
一口かじりとって目を閉じると、うっとりとした表情で咀嚼する。
その様が目の毒っつうか、なんつうか…
エロすぎる。

普段気づかないふりをしている欲望を直に刺激されて、俺は思わず立ち上がり、テーブルの天板にしたたか膝をぶつけて踞った。
“大丈夫ですか?”
八戒が心配そうに突っ伏した俺を覗きこむ。

ふと、俺を肘うちしてニヤニヤ笑った悟空の顔を思い出した。
あれはこういう意味だったのか。
悪い、サル。
バナナごときとバカにした俺が甘かった。
ありがとう。
美味しくいただいたぜ。

“悟浄もいかがですか?”
人の気も知らないで、八戒はバナナを差し出しながら無邪気に笑った。









end



(2017.5.5〜2017.8.4 拍手ss)




←novel