“ただいま”と玄関から入ってきた八戒の髪には、白い花が載っていた。
手には零れそうなほどたくさんのいちごが入ったカゴを下げて、まるで野原にいちご摘みに行ってきたようないでたちだ。
俺の視線を感じて、八戒はにこにこと頭に手をやった。
“悟空がお寺の庭から摘んでくれたんですよ。かわいい花ですよね。 このいちごは三蔵からです。毎年信者の方がたくさん持ってきてくださるとか。うちなんかじゃ買えない高級品ですよ。 一粒500円はするんじゃないでしょうか。良かったですね。あなた、いちご好きですよね。”
その恰好で、街の中抜けてきたのか。 また、悟浄のとこの同居人が、とか噂になってるぞ。
だって異様によく似合ってる。 まぁ、いつものことだから、いいけどな。
八戒は鼻歌なんか歌いながら、髪にさしていた花をガラスのコップに入れて、大きくて粒の揃ったいちごを鉢に盛り付けている。
こいつが白い花が好きなことも、実はいちごが好きなことも、猿と坊主は知ってるわけね。
なんだか面白くなくてつけっぱなしのテレビに目をやったら、知らない女優が
“生まれ変わっても、あなと一緒になりたいわ”
なんて、つまらないセリフを言っている。
“生まれ変わっても”って、人は死んだら終わりだろ。生まれ変わったりなんてしないでしょ。
口の中で突っ込みを入れてたら、八戒がいちごの鉢をコトリとテーブルに置いて向かいに座った。
“生まれ変わったら、悟浄は何がしたいですか?”
“そういうお前は?”
今度はまともな人間になりたいとか、姉ちゃんと添い遂げたいとか、口が裂けても言わないんだろうなーと思っていたら、 八戒はにっこり笑って
“またあなたと、こうやって暮らしたいですよ、僕は”
なんて普通に言うから、ちょっと言葉につまった。
“で、悟浄は?”
“俺も”って答えたらこいつは喜ぶのかな、なんて目の前のいちごを眺めながら考える。
道で転がってたこいつを拾って怪我直してやって、なんやかんやで死んだと思ってたのに生きていたから嬉しくて、 その勢いでうっかり同居しちゃったら美味いメシときれいな笑顔にダマされて気がつけば尻にひかれて小言いわれて、それでもなぜか悪くない毎日で。
たまに喧嘩してたまにキスしてたまに坊主や猿に嫉妬して、今更どうやったらこれ以上の関係になれるのよ、オレら。
なんて密かに悩んでるこの生活を、生まれ変わっても送るんですか。
“別に…何だか面倒くさそうだから、生まれ変わったらそのいちごでいいわ、オレ”
って言ったら、
“なげやりだなぁ”
なんて笑いながら、八戒は妙に嬉しそうにいちごを口に放り込んだ。




end



(2011.5.24〜2013.5.2 拍手ss)




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