クリスマスタイム






立ち寄ったその街は、異国の神の生誕を祝う賑わいに満ちていた。
めずらしく八戒に連れ出されて買出しに出かけた三蔵は、にぎやかに流れるクリスマスソングの中、
きらびやかに飾り付けられた店先に目をやりながら、小さく舌打ちした。
「クリスマスだからって、買い込みすぎだろう」
右手にぶら下げた買い物袋の中身は、酒や肴でいっぱいだった。
「だって今日はクリスマスですから」
パーティとまではいかなくても、それっぽくしたいじゃないですか、と言いながら、
八戒は肩にかけた重そうな買い物袋を背負い直す。

「こんなに買うなら、あいつらを連れてくればいいだろう」
「だって、あなたとクリスマスの街を歩きたかったんです」
しれっと答えてからほわんと笑う八戒に、三蔵の文句は行き場を失う。
そのまま言いくるめられるのは悔しくて、三蔵は八戒が肩に背負った荷物を指差した。
「毎年毎年、甘やかしすぎだ」
さっき買い込んだ品物の中に、悟空の好きな菓子を詰め込んだ真っ赤なクリスマスブーツがあることに、
三蔵は気づいていた。
「いいじゃないですか。一年に一度なんですから」
一年に一度でも、お前の気持ちがサルに向くのがイヤなんだよとは、とても言えない。
「クリスマスなんて、くだらねぇ」
吐き捨てるように呟いた三蔵の顔を、八戒は小さく首を傾げて覗き込む。
「三蔵のところには、子供の頃サンタさんは来なかったんですか?」
「来るわけねぇだろ。寺だぞ」
「あはは…そうですね」
八戒はのんびりと笑って続けた。
「僕は孤児院にいましたから、クリスマスの朝にはささやかなプレゼントが枕元に置いてありましたよ。
大して喜びもせず感謝もしない、 可愛げのない子供でしたけどね」
八戒は懐かしそうに目を細めた。
その言葉に三蔵は、ぼんやりと残る記憶を手繰り寄せた。
そういえば幼い頃一度だけ、朝目覚めたら枕元に包みが置いてあったことがあった。
中身は子供用の小さな手袋。
冷たい風が吹き抜ける庭を毎日掃き清める子供を気づかって、あの方がくれた白い手袋。
あれはもしかして、クリスマスプレゼントだったのだろうか?


「こんなに冷えちゃって」
八戒が何のためらいもなく三蔵の掌を取った。
そういう八戒の手も、すっかり冷え切っている。
「そろそろ帰りましょうか。今日は冷えますね」
きれいな微笑みに肯き返すと、二人は手を繋いだままゆっくりと宿へ向かって歩きだした。
「これで雪が降れば、完璧なんですけどね」
灰色の空を見上げて白い息を吐き出す八戒の、少し色づいた頬の上に、ふわりと何かが着地した。
ついで髪に、肩に、繋いだ二人の掌に。次々に天から落ちてくる白く淡い欠片…。
あ、と小さく呟いて、八戒がその碧を大きく瞠って三蔵を振り向く。
「雪ですよ、三蔵!」
二人は立ち止まって、ふわふわと舞い降りては消えてゆく雪を見上げていた。
「お前は…何か欲しいモンはねぇのか?」
「僕は今、もらいました。あなたと一緒に、初雪を見たかったんです」
八戒は嬉しくてたまらないという顔で笑った。
染み入るような寒さの中、
二人の掌はまるで異国の神への祈りを捧げる時のようにしっかりと握り合わされている。
冷えていたはずの掌には、微かな温もりが生まれていた。
「そういう、あなたは?」
「ふん」

異国の神にも聖なる夜にも興味はねぇが…
この温もりが。共に過ごす時間が。
ひと時でも長くあることを。


“メリークリスマス”






end



2010年クリスマス記念でした。

(2010.12.26〜2011.12.26 拍手ss)




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