シークレットトーク
世の中不公平なのが当たり前。
持てる者、持たざる者。富める者、貧しい者。幸せな者、不幸せな者。
どう足掻いても埋めることの出来ない差というものはあるもので、それを嘆くことが愚かしいことだと十分わかっている。
特に目の前の金髪の美しい人と、罪にまみれたこの身では天と地ほどの差があるのは当たり前のことで、その差があることに、実は安堵を覚えているのが本当の気持ちだ。
それでも時々、どうしようもなく割り切れない思いをすることがあるのも本当のこと…
小さく灯りを落とした部屋の中は、僕らが生みだした熱と吐息で満ちている。
きれいな指で体中触れられながら、僕は昼間太陽の光を集めて黄金に輝いていた三蔵の髪が、蜂蜜のように少しくすんだ優しい色を見せるのに見とれていた。
「八戒」
熱を帯びたまなざしで見つめられ強い腕で引き寄せられると、純粋な喜びと浅ましい期待が混ざり合って、うるさい程に鼓動が早くなる。
こんなふうにいつでも。
昼間は決して見せない熱情を含んだ瞳と深く優しい声で僕の鎧を解かして、三蔵は胸の奥深くまで緩やかに入り込んでくる。
不公平だ、と思う。
暴かれるのは、いつも自分ばかり。
きつく抱きしめあって熱を分け合えば、この想いなんか容易く暴かれてしまう。
消したい過去も、今も胸の奥に小さく残る彼女への未練も。
それから、この人への泣きたい位愛しい気持ちも。
きっと全て知られているに違いないのに。
僕がどんなに優しく抱きしめたいと願っても、三蔵がその心の中の傷を覗かせることは滅多にない。
本当に不公平だと思う。
さり気なく、でも当然のように僕の上に三蔵の熱が重なってくる。
もうとっくに我慢できないくらいだったのだけれど、僕はそれを押しとめるようにそっと三蔵の肩に手をかけた。
「どうした?」
怪訝そうに向けられた紫の瞳がこんな時にも曇っていないことに、少しだけ悔しさを感じてしまう。
「何でいつも僕が下なのかと思いまして」
少し困らせてみたい気持ちに抗えなくて、にっこり笑って聞いてみた。
三蔵は僅かに目を見開いて僕を見返した。
「俺を抱きたいのか?」
率直に問われて言葉を失った。
僕がこの人を?
違う。そうじゃない。
多分この人を抱いたとしても何も変わらない。僕は三蔵の何も暴くことはできないだろう。
この人の心の中にある傷は、決して忌わしいだけのものではない。
過ぎた日の闇を厭うだけでなく、大切にその心の中にしまっているように感じられる。
そんな心境に至るまでに一体どれだけの苦しみを通り抜けてきたのだろうか?
その時傍にいることができなかったことが、痛烈に悔しい。
傍にいて抱きしめて、降りかかる雨から守ってあげたかったのに。
僕は三蔵に出会ってさえいなかった。
「あ…」
突然ふわりと背が浮いたと思ったら体勢を入れ替えられて、僕は三蔵を見下ろしていた。
低い位置から真っ直ぐに向けられるまなざしの持つ熱量や、言葉にされなくても伝わってくる欲に、頭の芯が痺れるように熱くなる。
「上とか下とか、大して違わねぇだろう」
三蔵は優しく、だが逃げを許さない確かさで僕の腕を取ると、僕を導き跨がらせた。
「さんぞ・う…っ」
深く交わる体勢の為に生まれる苦痛に近いほどの快感に、思わず声が上がる。
何より羞恥に耐えられなくて普段なら小さく抗議するところなのだけれど、向けられた三蔵の瞳の柔らかさに、僕は息をのんだ。
「俺はこうしていると、いつもお前に抱かれている気がするがな」
気づかうように伸ばされた両の掌がそっと僕の頬に触れる。
少し湿って額にはりついた僕の前髪を、きれいな指が優しくかき上げる。
「それが俺にとってどんなに大切なことか、わかってんのか?」
「あっ…あぁ…」
ゆらりとさざ波を立てるように三蔵が動きだす。
その小さな波は、応えを返す間もないほど早さで僕の理性を押し流した。
今、この熱を抱きしめることを許してくれるなら。僕だけに許してくれるなら。
もう嘆くまい。
それだけで僕は、この人の隣に立つ自分を受け入れることができるから。
今も、これからも、きっと僕たちは不公平がちょうどよい。
end
ちょっとかわいい感じの八戒が書いてみたくて…
思ったほど、かわいくなりませんでした。
(2008.07.29)