parade
1.
今日、悟浄が怪我をした。
闘うことが日常のようなこの旅で、多少の怪我など当たり前のことだ。
些細な怪我なら放っておくし、長引きそうな時は僕が治療をする。
だけどそれは気が付くことができたらの話で、実際のところ、彼らから治療を求められることは稀だ。
治癒行為が僕の身体に負担をかけることを、皆必要以上に気にしてくれる。
今更遠慮がある仲でもないのに、妙なところで律儀なのだ。
そんな時僕はいつも、寂しさを感じてしまう。
そんなこと構わないのに。休養すれば体力なんて、すぐに回復するのだから。
こんなことくらいしか、僕にできることなどないのだから。
だけど悟浄は、いつも三蔵とも悟空とも違っている。
「八戒、オネガイ」
普段弱みを見せない人だけど、そんな時には少し照れくさそうに笑いながら傷ついた腕を差し出してくれる。
それは気心の知れた仲だからという理由もあるんだろう。
でもそれ以上に自分が悟浄から信頼され甘えてもらえる存在なのだと知らされているようで、僕はこの上ない喜びを感じてしまう。
この間悟空に言われて知ったのだけど、悟浄の治療をしている時、僕は随分と解けた幸せそうな顔をしているらしい。
だってそれは、気まぐれのような頻度で交わすキスよりも嬉しいものだから。
多分そのことを、悟浄は知っているんだろう。
だけど今、悟浄は治癒を求めてこない。
この宿に一夜の居を決めて部屋に入って二人きりになっても、一言も口を開かない。
乱暴に荷物を床に放り投げて、2つ並んだベッドのうちの一つに横になったきり身動きしなくなってしまった背中に、かける言葉が見つからなくて。
そっと覗き込んだ瞳は、暗く荒んだ光を帯びて壁を見つめているばかり。
頼るでもなく縋るでもなく、自分一人で苦いものを抱え込んでいる紅い瞳。
悟浄には時折こういうことがある。決して他の二人に見せることはないけれど。
いつも必要以上に皆の気持ちに敏く、悟空の退屈を紛らわし三蔵の苛立ちの矛先となり、僕の一方的な執着に付き合って。
自分の望みや本心は周到に覆い隠して、いつになっても見せてくれない。
まるで底がないような優しさに、時折無性にやりきれなくなる。
だから多分この時が、いつも慎重に覆っている胸の中の空ろを見せてくれている貴重な時なんだろうけれど。
それは大抵“拒絶”という形で現れるから、僕はどうしようもなくてただ立ちすくんでしまう。
「悟浄」
そっと肩に掌をふれようとして躊躇って。伸ばした指先は空で止まった。
「肩を見せて下さい」
「…」
「治療させてください。ひどく打ったでしょう?」
「…いらねえ」
何もかもどうでもいいような口調で返されて。
あぁ、拒絶されてるな、と感じる瞬間。
こんな時、痛い程自分の無力さを思い知らされる。
僕ではダメなのだと。
身体の傷は癒せても、悟浄の胸の奥にある冷たい痛みは、決して癒せはしないのだと。
暫くすると悟浄は何も告げすに部屋を出て行き、夕食の時間になっても、夜が更けても戻ってこなかった。
深夜に目を覚ました僕は、一人きりの部屋で小さなため息をついた。
隣りのベッドは空っぽで、真っ白いシーツが拒絶するように寒々しく闇に浮かび上がっている。
今頃は酒場か賭場にいるんだろう。
苦い思いよりも、仮初でもいいから今夜、悟浄を温めてくれる人がいるといいと思った。
それが自分でないことが哀しいという気持ちすら、もうわき上がらない。
でもそれも、一時の慰めにすぎないのだ。
あの人が求めているものは、夜の街なんかではなくて、すぐ隣りの部屋にあるのだから。
そう。
あの金色の美しい人でなければ、ダメなのだ。
2.
「あれ?」
時計の針は深夜を回って、宿の中は静まりかえっていた。
「なに?どしたの?」
嫌な音をたてて軋むドアに顔をしかめながら部屋に入ると、ベッドの上に三蔵がいた。
てっきり息をひそめて眠ったふりをしている八戒がいるもんだと思っていたから、ちょっとびっくりして目をみはる。
不機嫌顔で俺を見上げる三蔵は、深夜だというのに寝間着でもなくもちろん法衣でもなく、時々見せるシャツとジーンズといった姿でベッドの上に横たわり本を読んでいた。
品がいいまっ白いシャツは、たしか八戒が今朝やたら真剣にアイロンをかけていたやつだ。
あいつ、携帯用の小さなアイロンまで持ってるんだわ。これがまた重宝するわけよ。
三蔵はあいつが見たら眉を顰めそうな程見事にそれを着崩していた。
3つ、いや4つもボタンを外してしまったら、品のよさも何も無い。
三蔵は老眼鏡と噂される銀のフレームの眼鏡を外すと、綺麗な鎖骨を覗かせながら面倒そうにサイドボードに置いた。
「何か文句でもあんのか?」
文句なんかあるわけねえよなという顔で、三蔵はタバコに火をつけた。
確か今日は、いや昨日も一昨日もだけど、八戒と同室のはずだ。
宿につくなり歓楽街を目指した俺は、部屋割りなんか聞いちゃあいねえけど。
「アイツは?」
「俺じゃ不満か?」
とんでもない。
「どーいう風の吹き回し?」
「別に」
吐き出した煙を追うように逸らした目元が、ちょっと揺れている。
もしかして。まさか。
緊張してる、とか?
原因は数日前のアレかと思い巡らせて、俺は肩を竦めた。
「アイツになんか言われたでしょ?」
悟浄をなんとかしてください、とか、優しい言葉の一つでもかけてやって下さい、とか。
もしかして頭撫でてやってくださいとか、頭だけじゃなくて、あんなトコやそんなトコも撫でてやってくださいとか。
三蔵は怒りまくった視線をよこしたが、ハリセンも銃も取り出さねえってことは図星なんだろうな。
あいつ、馬鹿じゃねえの?そこまでしちゃうんだ。俺なんかのために。
そしてこいつは、ここまでしちゃうんだ。あいつのために。
まあ、“ここまで”っていってもこいつの場合、夜中に煙草一箱開けるくらいイライラしながら俺を待ってるだけなんだろうけど。
だけどあいつは…一体ナニをしたんだか。
「お前ら、ややこしいことしてんじゃねえよ」
灰皿からあふれんばかりの吸い殻と握りつぶされた赤と白のケースに目をやって、俺はにんまり笑った。
「別にオレらはいつもと一緒よ?たまに喧嘩もするけどさ。三蔵サマが気に掛けるほどのコトじゃねえって」
あいつがなんか言ってきたって、無視すりゃいいじゃん。
大抵のことは、そうやってやり過ごしてきてんだろ?
「不機嫌になればなるほどへラヘラと上機嫌になりやがって、鬱陶しいんだよ」
意味が分かるようなわからないような言葉を煙と一緒に吐き出すと、三蔵は短くなった煙草を灰皿に押しつけた。
「さっさとあいつの欲しいもん、くれてやれ。じゃねぇと、こっちに火の粉が飛んでくる」
それって、この口にできないような見事な三角関係を壊せって言ってるように聞こえるけど?
ちょっと意外。
まぁ、こいつにとっては経文を探し出すことが最優先課題なわけだから、そのためにはあいつへの想いなんか二の次にできるってことなんだろうけど。
それって本心?ンなわけねーよな。
三蔵は立ち上がると窓を開けて、立ち込めた煙を逃がした。
部屋で吸うなら、こまめに換気をしてくださいね。
八戒の口癖を思いだし、あいつがいなくてもちゃんと言うとおりにしている三蔵の律儀さにちょっと笑った。
「何があった?」
窓辺に立った三蔵は、嫌そうに眉を顰めながら俺を睨んだ。
「いや、ちょっと…さ。今更なんだけど、オレってなんでココにいるんだろーなって…」
何のためにココにいるのかって考えてみたら、俺のできることなんて何にもなくて。
あいつを満たしてやりたいと思いながら、俺はあいつを傷つけ続けているだけだ。
応えてやれない俺に傷ついてるくせに、何でもないようにきれいに笑って、あれこれ世話やいて傷まで癒して。
優しい人ですね、なんて呟いて痛みを堪えるような瞳で笑うあいつに、俺は結局何も返せない。
あいつの望むものは、何でもくれてやって構わないと思っていた。優しい言葉だってキスだって、欲しいならこの身体だって。
でもあいつの一番望むものだけは、どうしてもやれねえ。
どうしたらいい?
昔から、きれいなもんがすきだった。
どう足掻いてもきれいなもんになれない俺は、女でも花でもきれいなものに心惹かれた。
人も近づけないほど険しい岩場に咲く、真っ白い百合の花のような三蔵と。
汚れなど知らないって顔で泥の中から咲き開く真っ白な蓮の花のような八戒と。
どっちもきれいだから、俺は惹かれちまう。
「バカが下らねえこと考えてないで、俺を守ってりゃあいいさ」
「へ?」
「そのために、この旅に付いてきたんだろ?」
「なんでお前のためになんか…」
「じゃあ、俺を守るあいつを守ってりゃあいい。あいつは、何があっても俺から離れねえ」
その無条件の信頼は何だ?
俺には確かなものなんて何もない。ただこの瞳と髪だけが真実だ。
あ…俺に向けられるあいつの想いも、多分真実。それくらいは、ロクデナシの俺だってわかる。
あぁ、やっぱ俺は、いつまでもこいつには追いつけねえな。
守りたいとか優しくしたいとか、ズルズル生きてる俺とは全く違う。
得るものと捨てるものを最初から決めちまってる、潔くて孤独なその生き方に、怖いほど惹かれはするけれど。
こいつと並んで歩くなんて、きっと一生できやしない。
こんな三蔵に痛みを与えられるのは、あいつしかいない。
その事実が俺を動かしている。
そしてあいつを動かす理由も、きっと同じなんだろうな。
3.
「どうせなら守るだけじゃなくて、あーんなことやこーんなことも、したいなぁ」
「断る」
しおらしかったのは、僅かの間だけだった。
調子を取り戻した悟浄は妙にすっきりした顔で笑うと、窓枠に寄りかかる俺にまとわりついてきた。
俺の即答に、堪える様子もない。
「気持ちイイこともイタいこともお好み次第。天国にだって連れて行ってやるぜ」
図々しくも俺の顎を捉えて唇を寄せてくる悟浄の腕を、思い切り叩き落とした。
「おいっ!」
「わかってるって」
悟浄は片頬を引き上げ笑った。
「アイツを離したりなんかしねえよ、最期まで。だからさ…お前もこんな風に、無理する必要ねえんだって」
叩き落とされた掌をヒラヒラさせながら、冗談っぽくウインクしてみせる。
「まぁ俺としちゃあ、気持ちよくしてやりたいっつ―のはマジなんだけど?」
不穏な発言に眉を吊り上げる俺に、悟浄は苦笑しながら続けた。
「でも、さ…俺じゃ、ダメなんだろ?」
それはまさに、夕べの八戒の言葉だった。
“僕じゃ、ダメなんです”
色の抜けるほど握りしめていた指先でシャツのボタンを外しながら、奇妙なほど穏やかに微笑んだ男。
何の迷いもなく肩先からすべり落としたシャツを無造作に床に落として目の前に立ったあいつは、思い詰めたような諦めたような不思議な瞳をしていた。
ぬるま湯のようなこの曖昧な関係を、壊さなければならないのだと。そうでなければ、もう一歩も進めないのだと。
そんな思いを滲ませた瞳で俺を見ていた。
だが身体だけ繋いで何になる?
たとえ八戒を抱いたからって、余計に喪失感を意識するだけじゃねえのか?
そんな欺瞞で満たされるほど俺の腹の中はかわいいもんじゃねえし、多分悟浄だってそうだろう。
それに、満ることなど端から知らないような乾いた瞳は、紅いやつだけで十分だ。
冷たい頬に指を伸ばすと、八戒は長い睫を震わせて目を閉じた。
そっと撫でてやると、怯えたような息を吐き出す。
無理してんのがバレバレだ。
そのまま裸の胸に掌を滑らせて、微かな鼓動を感じる場所に指先を当てた。
「こんなハンパなもんじゃなくて、お前の全てをよこせよ。この奥深くに刻み込んだ大事なもん、丸ごと俺に寄こせ」
あいつも、あの女も、捨てることなどできねえくせに。
八戒は泣き出しそうな顔で笑うと目を伏せた。
「困りましたね。それは…無理です」
「あいつに甘えてやればいいさ」
今までみたいにわがまま言って困らせて、呆れさせて心配させて。
そんな他愛のない出来事の積み重ねが、あいつを癒してきたんだろう。
俺にはやれなかった穏やかな日常を、柔らかな温もりを、こいつは苦も無く与えてきた。
それがあいつの欲しいもんなら、なんでもくれてやるさ。
どうせ最後の最後まで手に入らねえなら、せめて満たされた笑顔だけでも見たいってもんだろう。
こんなこと思うなんて、ガラじゃねえけどな。
全て受け止めたといった顔で、悟浄はニヤリと笑った。
「三蔵サマにも甘えたいなァ」
ふざけた口調で俺の腰に掌を滑らす目の前の紅い頭を、手加減なしでハリセンで引っぱたいた。
4.
ふと、空気が震えた気がして目を開けた。
いつも嫌になるほど鈍感なのに、こんな時だけは気配を感じてしまうのだから困ってしまう。
多分、あの人が帰ってきたのだ。
どうにかしてこの時をやり過ごしたかったのに。
薬に耐性のありすぎるのは問題だなと、まだ少し霞む頭でぼんやり考えた。
あの薬を自分から強請ったのは初めてだった。
三蔵の驚いた顔を思い出したら、なんだか笑いがこみあげてきた。
あの二人が一緒に過ごしているというのに、まともに起きていられるはずがないだろう。
三蔵は上手くやっているだろうか。今ごろは、互いの熱を感じているだろうか。
悟浄はどんなふうに三蔵に触れるんだろう。
大切なものを扱うように、特別優しくするんだろうか。
ずるい人だと思う。突き放しもせず受け入れもせず、曖昧なままの状態を楽しんでいるんだ。
いや、そうじゃない。
きっと、どうしたらいいのかわからないんだ。
優しくしたくてたまらない人だから。
求められたら、求められていると感じたら、僕なんかにまでどこまでも差し出してしまう人だから。
「悟浄…」
思わず口をついたその名前に苦しくなって、僕はのろのろと身を起こした。
どこからか湧きあがってくる震えを止めようと自分の肩を抱きしめても、小刻みな震えはとまらない。
この冷たさは、きっと悟浄の胸の中に居座り続ける冷たさと同じものだ。
温められるのは、きっと三蔵だけだから。
その光で僕を救ったように、どうかあの人を救って。
その時微かな気配を感じて隣のベッドに目をやった僕は、息をのんだ。
ぼんやりとした常夜灯の光を反射して、金色の瞳がこっちを見ていた。
見られたかもしれない。いつも悟空の前では、気をつけていたのに。
悟空は身を起こすと、屈託なく笑った。
「寒いなら、こっちこいよ」
一瞬返す言葉に詰まって目を瞠る。
「一緒に寝たら、あったかいだろ?」
ほら、と言って悟空は右手を差し出した。
まるで溺れる者に向けるような真剣さで。
5
「こっちへこいよ」
もう一度呼びかけても、八戒は驚いたように俺を見返すだけだった。
そりゃあびっくりするよな。だから俺は八戒の口から何か言葉が出る前に、素早く隣りのベッドにもぐりこんだ。
「うわ、ホントに冷てえ!」
包みこんだ掌も触れた足もまるで外を歩き回っていたみたいに冷たくて、一生懸命に掌や脚で擦ってやった。
「どうしたんですか?悟空も寒いんですか?」
八戒は困った顔をして身を固くしている。
「オレは熱いくらいだよ」
「じゃあ、どうして…」
「いつでも居眠りできる俺と違って、八戒は運転とかいろいろ大変なんだからさ。ちゃんと眠っとかなきゃダメだろ?」
あったまると眠くなるんだぜ、って言ったら、八戒はやっと力を抜いて微笑んだ。
「ありがとうございます」
「あいつ、またハリセンくらってるな」
碧の瞳が驚いたように見開く。
「聞こえるんですか?」
「うん、なんとなく」
八戒は安心したみたいながっかりしたみたいな、不思議な表情で笑った。
俺と八戒はくっつきあって、他愛のない話をした。
「今夜の夕飯、美味かったな。餃子がめちゃくちゃ美味かった。でも、前に八戒が作ってくれた餃子が、今まで食った中で一番美味かったよ。ああ、また食いてえなぁ」
「今度自炊のできる宿に泊まったら、作りますね。悟空も手伝ってくれますか?」
「やったぁ!すげえ楽しみ♪オレ、何でも手伝う!」
本当は食べたいもんは、すぐ目の前にあるんだけどな。このまま八戒を俺のもんにしたいんだけど。
俺、何でも知ってるよ。試したことはないけど、ちゃんと悟浄に教わったから。
どうやったら上手くキスできるかとか、どうしたら気持ちよくしてあげられるかとか、何を言ったら八戒が泣いてしまうか、とか。
でも八戒は俺にそんなこと望んでないんだろ?
だから俺は、何にも知らない振りで笑うんだ。
気がつくと、八戒はまるでウサギみたいに丸まって眠っていた。
寂しいと死んでしまうというウサギみたいに。
俺はそっと頬にかかる髪を払ってやった。
旅に出る前は、八戒と悟浄は恋人同士なんだと思っていた。
一緒に住んでたし、お互いに何でも分かり合ってるって感じだったから。
そんな二人を苦々しい顔で眺めている三蔵を、可哀想だなぁ、俺と同じか、なんて思っていたんだ。
旅に出てからも休憩のために立ち寄った森の中で、たまに二人が抱き合ったりキスしている姿を見掛けた。
でもそんな時、なぜか八戒は寂しそうで。笑っているのに、なんだか泣いてるみたいに見えた。
そのうち、三蔵に向ける悟浄の視線に気がついた。
まるで眩しいものを見るみたいに、隠しきれない想いが溢れてしまったように一瞬だけ向ける切ない視線に。
俺でさえ気付くんだから、八戒が気付かないはずないよな。
あぁ、そうか。
こいつらは、受け取ってもらえない想いを抱き締めながら、誰も傷つけたくなくてこんな関係を続けているんだなってわかったんだ。
馬鹿な奴らだと思うよ。
本当に好きなら、欲しいなら、誰かの気持ちなんて関係ない。力づくでも奪えばいいのにって思っていた。
でも三人を見ていると、こんな関係も嘘じゃないって思えるんだ。
次の朝目を覚ましたら、隣りに八戒の姿がなかった。
慌てて部屋を飛び出して食堂に向かったら、部屋の外まで賑やかな声が聞こえていた。
中に入ると三蔵と悟浄が言い争いをしていて、八戒はいつもみたいに宥めてるのか焚きつけてるのかよくわからない合いの手を入れながら笑っていた。
多分互いの想いの先がどこに向かっていても、こいつらには関係がないんだ。
ただ一緒に居られること。多分それが一番大切なことなんだ。
大人って、よくわかんねえ。
でももしこの中で一人だけ大事な奴を選べっていわれても、きっと俺も選べないよ。
「おはようございます、悟空」
窓から入り込む光の中で、碧の瞳が俺をみて優しく笑った。
end