「ナニやってんだよ、おめぇはよ!」
「うるせぇな、間違えただけじゃん」
「はぁァ !?」
「八戒のイチゴ、もらおうとしたんだよ」
「バッカじゃねぇの?」
三蔵と悟浄が蹴破るような勢いで窓から部屋に飛び込んできたのは、唇に痛みを感じた直後だった。
何が起こったのか把握しきれない僕は、ぼんやりと悟浄と悟空のやりとりを眺めている。
悟浄の罵詈雑言をものともせず、僕から取り上げたフォークを握りしめて幸せそうにイチゴを頬張る悟空を見ていると、さっきのキスは夢だったんじゃないかと思ってしまう。
でも、この、痛みは――。
ジンジンと熱を持ち始めた唇に指を当てると、三蔵の視線が突き刺さった。
「え…っと…あの…」
言葉を探す僕に小さな舌打ちを寄こすと、三蔵は悟空の首根っこを掴んで引き上げた。
「うわ、何すんだよ!」
「うるせぇ、ガキは寝る時間だ!」
「まだケーキがっ…」
悟空はあわててケーキの皿を手にすると、いつもの笑顔で“おやすみ”と手を振りながら三蔵に引きずられるように部屋を出て行った。
三蔵も大変だな、なんて他人事のように考えていると、隣で悟浄が“年頃の子を持つおとーさんは大変だねぇ”なんて呟いている。
本当に。
こんなロクでもない男に係わった日には、心配でたまらないだろう。
三蔵の苦労を思って深く頷いた僕を笑うと、悟浄はポケットから煙草を取り出した。
“今夜はこの部屋は禁煙ですよ。だからあなたはあの人と一緒に隣でどうぞ”
朝から何度も心の中で練習した台詞が、どうしたものか言葉にならない。
「これ、オレの気持ち♪」
悟浄はフィルムを剥がして一本抜き出すと、そっと僕の唇にはさんでくれた。
それは煙草の形のチョコレート。
なんだか急に胸が熱くなってうつむいた僕の頬に、悟浄の指が触れた。
「あぁ、あいつ下っ手くそ…。今度教えてやらねぇとな」
呟きながら悟浄の舌がそっと僕の傷を舐めて、途端に痛みと甘さが胸の中になだれこむ。
本当に欲しいものはいつも目の前にあるのに、狡い僕は奪うことも諦めることもできやしない。
ただ、ここにいてくれるだけで充分だから。
もう僕に、何も望ませないで。
end
(2011.2.23)
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