christmas eve
「しーっ…静かにしてください」
聞きなれた柔らかな声に、悟空はふと目を覚ました。
暗闇の中に小さな蛍火がゆらゆらと動いているのを見つけて、急いで目を閉じる。
「もう…煙草は消して下さいって言ったじゃないですか」
目を覚ましたらどうするんですか、という八戒の囁きと。
「俺は仏僧だぞ。異国の神の誕生日なんて、関係ねぇだろうが」
少し拗ねたような三蔵の声が聞こえて、悟空は布団の中で息をひそめた。
「いいじゃないですか、クリスマスは最早立派な年中行事なんですから」
「面倒くせぇ。何でこんなことしなきゃなんねぇんだ」
「子供に夢と希望を与えるのもお父さんの務めですよ」
「誰がお父さんだっ!誰が!」
「貴方に決まっているでしょう」
三蔵がお父さんなら、八戒はお母さんだろうか。
可笑しくて少し身じろぐと、二人は息を飲んで動きを止めた。
「早くしないと悟空が目を覚ましてしまいます」
「こいつは腹が減らない限り起きねぇから安心しろ」
自分だってたまには夜中に目を覚ますこともあるのだ。
こんな特別な夜には、尚更に。
「甘やかしすぎだ…」
ぶつぶつ言いながらも、寝たふりをしている悟空の枕元にそっと何かを置く気配がした。
それはきっと昼間ジープに積んである荷物の奥の奥に見つけてしまった、大きな赤いブーツだ。
中には悟空の大好きなお菓子ばかりがぎゅうぎゅうに詰め込まれている。
「悟空は喜んでくれるでしょうか?」
「喜ばないわけねぇだろ」
「明日の朝が楽しみですね」
「…そういえば」
三蔵が小さく咳払いをしてから、少しぶっきらぼうに囁いた。
「俺たちにはプレゼントはねぇのか?」
「さぁ、どうでしょう。サンタは良い子のところにしか来ないそうですよ」
「じゃあ、望み薄だな」
くすくすと笑い声が聞こえた後、二つの息遣いが一つになる気配がして。
温かくて柔らかい空気で小さな部屋が満たされる。
真冬の寒さなんて気にならないほどに。
「そろそろ寝るぞ」
なんともはた迷惑で騒がしいサンタクロース達は、部屋を出て行った。
ドアが開く音に薄目を開けた悟空が目にしたのは、廊下の灯りに映し出された幸せそうに寄り添う二人の後姿。
その掌は異国の神へ祈りを捧げる時のように、しっかりと絡み合わされていて。
まるで離れないことを願うようで。
静寂と暗闇が戻ったベッドの上で、悟空は思い返していた。
何日も前から八戒が三蔵に内緒で編んでいた、白い手袋。
きっとあれは、サンタからのクリスマスプレゼントになるんだろう。
明日の朝枕元にそれを見つけた時の、三蔵の驚いた顔を思い浮かべて笑ってしまう。
だけど本当のプレゼントは、目覚めた時隣りにいる、かけがえのない人の存在なんだろう。
“メリークリスマス”
大きなあくびを一つすると、悟空は笑いながら目を閉じた。
end
389で親子です。
(2009.12.24〜2010.4.6 拍手ss)