rainy stroll







パラパラと傘を鳴らす雨音を聞きながら、人気のない町を足早に歩いていく。
さっきから探しているのに、金の髪の美しい人の姿はどこにも見あたらない。

たどり着いた宿で慌しくチェックインや荷物の整理をしている間に、三蔵は姿を消していた。
タバコが切れたとぼやきながら出て行ったというから、買出しを待ちきれずにタバコ屋に向かったのだろうけれど。
「どうして一人で行かせるんですか!」
いつ敵が襲ってきてもおかしくない状況なのに。
「だって一刻も我慢できねぇって顔してたしぃ」
喫煙者同士、通じ合っていて羨ましいことだ。
眉を吊り上げる僕にはお構いなしに、悟浄は欠伸をしながら長い指を窓に向けた。
「そんなことより降ってきたぜ。いいの?」
「そういうことは、早く言ってください!」
悟浄の笑い声を背に、僕は傘をつかんで駆け出した。


雨音が傘を通して身体に響く。
不規則な心地よいリズム。湿った雨の匂い。柔らかな土の感触。
こんな雨は嫌いじゃない。季節の移ろいを感じさせる、穏やかで優しい雨。
昔は雨が怖かった。
今は怖くはないけれど、それでも雨の降る日は特別だ。
だって――
「!」
小さなタバコ屋の軒下で、タバコをふかしながら雨宿りしている三蔵を見つけて駆け寄った。
少し濡れてしまったのだろう。
しっとりと湿った金の髪がとてもきれいで、僕はつい見とれてしまう。
「遅ぇぞ」
「出かける時は、言ってくださいよ」
三蔵は僕を見るなり不満そうな言葉を口にするけれど、少し息を切らした僕を見つめるその瞳はとても優しい。
「慌てていて、傘を一本しか持ってきませんでした」
「構わねぇだろ」
そっと傘を差し掛けると、三蔵は何の躊躇いもなく並んで歩き出した。
傘を忘れたのは、もちろんワザとだ。
傘の中は狭いから、二人の距離がいつもより近くても許されるような気がして。
そんな僕の姑息な考えを、多分悟浄は見抜いていた。
そしてきっと、この人も。


雨音を聞きながら、言葉少なに歩いてゆく。
触れそうで触れない肩先が気になって、僕は視線を彷徨わせる。
ひっそりと濡れる町はその輪郭があやふやで、雨の中に沈んで見える。
雨が怖かったのは、そう昔のことじゃない。
雨に濡れたら、僕の正気は砂糖菓子のように溶けて崩れてしまうんじゃないかと。
二度と元に戻れないんじゃないかと、そう感じられて。
今でも雨は容易く過去を連れてきて、時に僕を縛り傷つける。
それでも歩いてゆけるのは、全てを抱きしめて生きていくしかないとわかっているから。
並んで歩いてゆく人が、いてくれるから。

突然強く肩を抱かれて、僕は息をのんだ。
「濡れてるぞ」
傘からはみ出した僕の左肩は、すっかり濡れている。でも三蔵の右肩だって、濡れているのだ。
男二人が一つの傘では、どんなに気をつけていても濡れてしまう。
「大丈夫ですよ」
あなたがいるから、僕は大丈夫です。
いつかあなたがいなくても、大丈夫になりますから。
それまではもう少し、並んで歩かせてください。
「もっと傍に寄れ」
三蔵はさらに強く僕の肩を抱き寄せた。肩と肩が触れ合って、タバコの匂いが近くなる。
一瞬で耳まで赤くなった僕を見て、三蔵は口元を引き上げた。
「もっとゆっくり歩け。濡れるだろうが」
「は、早く戻らなきゃ…不良園児たちが待っていますからっ…」
そろそろお腹をすかせた悟空が騒ぎ出す頃だろう。
悟浄がそんな悟空をからかって、いつもの騒々しい掛け合いが始まっているかもしれない。

早く戻らなければならないのに、僕らの足取りは一向に早まらない。
もう少し、あと少しだけ、この傘の下で。
あなたを感じていたいから。

雨の散歩はいつまでも終わらない。





end




あいあい傘はお約束。
インタビューでは断られていましたが、きっと八戒は喜んで迎えに行くと思います。


(2010.3.8)




 


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