サンタクロースの恋
寝返りをうった時、耳元でガサッと音がした。
耳慣れない音に眠い目を無理やり開いてみると、きれいな緑色の包みに真っ赤なリボンのかかった箱が置いてある。
「んーっ?」
悟浄はゆっくりと起き上がると、ぐるりと部屋の中を見回した。
細く開いたカーテンの隙間から見える外の景色はすっかり白銀に変わっていたが、部屋の中にいつもと変わった様子はない。
「なに、コレ?」
呟くと、あまりの寒さにくしゃみが一つ出た。
降り出した雪の中酒場から帰ってきて、夜明け近くにベッドに入った時には何もなかったはずだ。
一体いつの間に?
そう思いながら細長い箱を手にすると、悟浄は少しそれを揺らしてみた。
液体が揺れるような手応えとトプリと小さな音がする。
どうやら中には瓶が入っているようだ。
雪の日特有のしんとした寒さに身震いしながら、悟浄は包みを抱えて立ち上がった。
ドアを開けると、同時に隣の部屋のドアが開いて八戒が出てきた。
胸に小さな正方形の包みを抱きしめている。
「サンタがきました!」
八戒は照れたような怒ったような、不思議な表情でこっちを見た。
「なんと、この歳になって!」
悟浄も手にした包みを差しあげた。
「俺んとこにもきたぞ」
しかも、生まれて初めてだ。
「ええっ、悟浄にもですか?」
八戒はわざとらしく驚いた顔をしてから、いたずらっぽい微笑みを見せた。
「おかしいなぁ、サンタはよい子のところにしか来ないはずなんですけどねぇ…」
八戒は冷え切っている居間のストーブに火を入れながら、しきりに首を捻っている。
こんなによい子なのに、何を言うか?
「ところで、何もらったんだ?」
2人で同時に包みを開いた。
悟浄の手の中には、1本の赤ワイン。八戒の手には1枚のCD。
「わぁ…、これ欲しかったんですよ。嬉しいな」
八戒が弾んだ声をあげる。
それは少し前に、ラジオで紹介されていたCDだった。
悟浄にはあまり馴染みのない、クラッシックをジャズにアレンジしたという楽曲集。
「聴いてみたいな」という八戒の呟きを、サンタは聞き逃さなかった。
街のCDショップで見つけるのには、少し手間取ったが。
「おー、美味そうだな。早く飲もうぜ」
「まずは朝ご飯ですよ」
甘えるような悟浄の言葉に、八戒はきれいな微笑を見せた。
簡単な朝食の後、いつものコーヒーではなく温めたワインを手に、2人で床に座り込んだ。
朝からお酒なんて、という小言も、今日は八戒の口から出ることはない。
CDプレーヤーからは、ジャズの少し寂しげな音色が流れ、窓の外は雪がいつもの冬枯れた景色をきれいな白の世界に変えている。
掌の中のワインからは、甘くほのかにスパイスの香りが立ち上ぼる。
身体の奥からじんわりと温まってきて、悟浄は深く息をはいた。
「コレ、どうやって作ったの?」
「ドライフルーツやシナモンと一緒にワインを温めて、最後に蜂蜜を少し入れたんですよ」
八戒は透明な耐熱グラスの中のワインを透かすように目の高さに持ち上げた。
「あなたには少し甘すぎましたか?」
愛しいものをみるような瞳でその赤を見つめてから、こちらに視線を移しにっこり笑う。
「きれいな色ですね」
八戒に言われると、そう思えるから不思議だ。
「こういう時、何ていうんだっけ……メリークリスマス?」
照れながら口にすると、八戒は少し驚いたように目を瞠った。
「酔いましたか?」
くすりと笑うと、きれいな指先が空いている方の悟浄の掌を掴まえた。
そのまま指を絡ませてやると、八戒はうっとり微笑んだ。
「メリークリスマス、悟浄」
薄い肩を抱き寄せて、口づける。
腕の中のサンタクロースの唇は、ひどく甘かった。
end
悟浄は寝る前に、八戒は朝早く、サンタになったのではないかと。
(2008.12.25)