準備




三蔵から突然、旅に出るぞと言われて1週間。
今度は東に向かうとか。
あれこれ文句を口にしながらも、僕はこの数日、湧き立つ思いを感じていた。
こんなに胸が弾むのは、何年振りだろう。
西から戻って以来かもしれない。
あの時は、こんな旅は金輪際ごめんだと、4人で言い合ったはずなのに。

「ちょっと悟浄、本気ですか?」
「そーよ。いい機会だから、アレもコレも捨てていこうぜ」
悟浄はリビングのソファやテレビを指さした。
「おまえ、断捨離したいって言ってたろ?」
「確かに言っていましたけど…」
慎ましく暮らしていたつもりでも、ひと所に長く住んでいたらモノが増えるのも仕方ない。
「そういえば、ヌカドコ、どうしたの?」
「主婦仲間の方にお譲りしました。また過酷な旅になるかもしれませんし」
糠床を毎日欠かさずかきまわせるとは限らない。
「で、結局何を持ってく?」
はて。
改めて部屋の中を見回して考えた。
ジープに積める大きさのものは限られている。
そうなるとーー

驚いた。
悟浄しか思いつかない。
というか、悟浄がいればいいなんて、こっ恥ずかしいことを考えたのだ。

思い出の写真を収めたアルバムとか、西から持ち帰った美しい石とか、気に入って長く使っているフライパンとか、
数年前に悟浄からもらった高価な琺瑯鍋とか(あれはことの他嬉しかった)。
いくつか大切にしているものはあるはずなのに。

四十にもなって…
いや、今だからこそなのか。

「まあ、あなた、くらいですかね」

悟浄は手にしたタバコをぽとりと落とすと、明後日の方を向きながら「俺もだわ」なんて呟いて続けた。
「おまえがいればいいや」






end



2016年9誕にアップした「不惑」の続きです。

(2022.6.16)





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