買い出し
“今日は冷えますね”
そう言ってクシャミを一つすると、常日頃冷え症だと嘆く男は小さく身を震わせた。
買い出しに出た街角には冷たい北風が吹き抜け、通りを行く人は皆足速だ。
気まぐれに買い出しに付き合うと告げると、八戒は嬉しそうに笑った。
一体どうしたんだ、今日は雨が降るいや槍が降ると騒ぎ立てるサルとカッパを宿に残し出かけた街は、街路樹が赤や黄色に染まっている。
市場を周り必要なものは大方揃った。
それぞれ一つずつ包みを抱えているが、片手は空いている。
“手を出せ”
“え?”
八戒は目を丸くして見返した。
“寒いんだろうが。ほら”
片手を差し出すと、八戒は“うっ”と妙な声を上げて動きを止めた。
“どうしたんですか、突然”
こんな場所で?と、目で訴えている。
普段なら人目につく場所でこんなこと、しようとも思わないが。
“「今日」だからな”
その言葉は呪文のように、八戒の反論を封じ込めた。
おずおずと差し出した右手をしっかり掴まえると、そのまま並んで歩き出す。
さぞ冷たいのだろうと思っていた八戒の手は、ほんのり温かかった。
少しの間力が入っていた指は、やがてそっと添えられた。
平然とした面持ちで、でも指先に互いの熱を感じながら歩いていく。
絡み合った指先に緩く力を込めると、同じくらいの力で握り返してくる。
そんな些細なやり取りさえ愛しくて、大切だと思う。
八戒は照れ臭さを隠すように、さっきから他愛のないことを喋り通しだ。
“夕食は何にしますか?宿のご主人にお願いして調理場を使わせて頂くことにしましたから、何でも作りますよ。久しぶりに餃子にしますか。寒いから鍋?おでん?それともシチューがいいでしょうか。
お誕生日ですから、もちろんケーキも作りますよ。遠慮しないで食べたいものをリクエストしてくださいね”
“お前に決まってるだろう”
絶句して顔を赤らめた八戒を引っ張って、宿への道を歩いていく。
ほかに何も必要ない。
この瞬間二人でいることで、ただ満たされていた。
end
(2019.11.29〜2020.11.8 拍手ss)